石原都知事    殿

東京都教育委員会 殿

東京都議会    殿

 

東京弁護士会の「警告」に対する声明

 

 本件事件は、2003年7月2日、東京都議会における都議の質問を発端に、7月4日、教育委員会、都議、日野市議らが七生養護学校を「視察」と称して訪ずれ、同校の保健室に保管されていた教材を提出させ、また同行していた産経新聞記者が教材を並べて写真を撮り、翌日の産経新聞に「まるでアダルトショップのよう」と実態に反した記事を掲載し、七生養護学校の「心とからだの学習」を過激な性教育だと決めつけ、実施できないようにし、教員らを厳重注意したというものである。

 2003年12月末、映画監督の山田洋次さん、脚本家の小山内美江子さん、学者の堀尾輝久さん、上野千鶴子さんら著名人を筆頭に多数の市民・専門家・保護者・教職員らが、東京弁護士会に対し、子どもたちの性についての学習権と自己決定権の保障を求めて人権救済の申立てをしたが、申立人はその後も次々と増え、現在は総数8125人に達している。

 これに対し、東京弁護士会は、2005年1月26日、東京都教育委員会に対し、「子どもの学習権とこれを保障するための教師の教育の自由を侵害した重大な違法がある」として @ 教員に対する厳重注意の撤回、 A 教材を七生養護学校に戻すこと、 B 性教育の内容及び方法を2003年7月3日以前に戻すこと、C教育委員会は不当な介入をしてはならないとの警告を出した。 同弁護士会の人権救済には、要望、勧告、警告の種類があるが、警告は人権侵害の度合いが最も強い場合に、侵害者に対し改善を求めるものである。


 人間にとって性は生に関わる問題であり、すべての子どもたちは、性の学習を通じて自らを高め人格を完成させてゆく固有の権利を持っている。他方、現在の情報化社会において、子どもたちは、ポルノ情報ともいうべき性情報に無防備なままでさらされている。正しい知識を得られないまま、ゆがめられた性情報だけがひとり歩きし、子どもたちを性の被害者、性の加害者へとおとしめ、子どもたちの成長を阻害している。子どもたちに必要なのは正しい性の知識と自己決定能力を獲得するための学習の機会であり、大人にはこれを保障する義務がある。このような日本の状況に鑑み、 2004年1月には、国連・子どもの権利委員会からも、日本政府に対して子どもたちの思春期の性と発達について教育も含めて見直すよう勧告が出されている。

 七生養護学校の「心とからだの学習」は、子どもたちに性に関する科学的な知識と、自分を守り様々な人との豊かな人間関係を築く自立と共生について教え、生きていくうえで不可欠な自己肯定感・生きる力を与えるものであった。学習指導要領の趣旨にも合致し「行きすぎた性教育」などと批判されるいわれは微塵も無い。保護者と教職員が子どもたちのために工夫し積み上げてきたすばらしい教育実践であった。
 ところが、上記の都議らは七生の教育の現実の姿にはまったく目もくれず、最初から「不適切」と決めつけて学校を訪れ、養護教諭らに威嚇的な口調で質問したり、教材の人形に着せてあった洋服をわざわざ脱がせて下半身を露出させ床に並べる等したり、ことさらに「心とからだの学習」を否定し、卑猥なものとして取り上げた。これは、いやしくも議員の地位にある者の視察の名に到底値しない行為であり、憲法26条が保障する子どもたちの学習権とそのための教師の教育の自由を著しく侵害するものである。また、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」と規定する教育基本法10条1項に真っ向から反する重大な違法行為である。


 本来、東京都教育委員会は、このような政治的圧力が加えられようとした場合はこれに屈することなく、圧力を排除して教育の自主性を守るべき憲法上・法律上の職責を負っている。ところが、都教委は、漫然と上記都議らの行為を放置し、さらにはこれに同調する立場に立って一方的な「調査」を行い、七生養護学校教員らに「厳重注意」し、自らかかる人権侵害に加担した。これは、政治的圧力からの防波堤としてあえて独立した教育委員会を置いた法の趣旨に反する自殺行為であり、教育委員会の責任は重大である。

 今回の東京弁護士会の「警告」は、当事者双方に意見を求め、養護学校はもちろん幼稚園・小学校・中学校・高等学校・盲ろう学校に関する指導要領や性教育の手引き・指導資料等をもとに文部科学省・東京都ほかの性教育に関する政策の推移・内容をも子細に検討したうえで、本件人権侵害事実の実態を正確にふまえて判断したものであり、法律論も極めて手堅く説得的である。 「警告」の内容が社会の多数の願いに沿うものであることは、本件 人権救済の申立に対し短期間に前例の無い8000人を超える人々が申立人となった事実からも明かである。

 申立人は、東京都教育委員会が、東京弁護士会の警告に従って、「教員に対する厳重処分の撤回」「没収した教材の返還」「以前の性教育への復活」「不当介入の禁止」をすることを求める。そして「これらの憲法、教育基本法に違反した違法な今回の行為によって被った生徒、教員、保護者らに対して謝罪をし、精神的被害を回復すること」「東京都内の他の学校においてもなされている性教育に対する攻撃や人権侵害をやめること」を厳に申し入れる。 人権侵害にあたる作為については以後それをせず、侵害状態の是正に作為を要することがらについては遅くとも2004年度(平成16年度)末日までに是正のための行動をとることを求める。そして、万一、この期間内に、何らの是正も図られない場合には、申立人らは本件申立の原因となった行為の人権侵害性、およびその人権侵害性を認識しながら放置した更なる違法行為を理由に裁判所へ訴訟提起するとともに、国連の子どもの権利委員会への報告措置をとることも辞さない所存である。

 

以上を明らかにし、東京弁護士会の警告をうけての声明とする。

 

2005年2月 9日

申立人  8,125 人代表:浅井春夫・斉藤弘子・高柳美知子・中原正木

 弁護団: 児玉勇二・窪田之喜・齊藤園生・杉浦ひとみ・中川重徳・

        木村真実・西田美樹・田部知江子・山下太郎・伊藤敬史・

          小林善亮・山下敏雅・渡邊隆・稲見秀登・坂本雅弥   

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