2005年1月24日
東京都教育委員会
教育長 横 山 洋 吉 殿
東京弁護士会
会長 岩 井 重 一
警 告 書
東京弁護土会は、申立人山田洋次、小山内美江子、斎藤貴男、川田悦子、堀尾輝久、蔦森樹、朴慶南ほか総数8125名による2004年1月7日付人権救済申立事件を受理し、調査した結果、以下のような人権侵害の事実があるものと判断し、被申立人東京都教育委員会に対し、次のとおり警告する。
警告の趣旨
1 東京都教育委員会(以下「教育委員会」ともいう。)は、2003年9月11日東京都 立七生養護学校(以下「七生養護学校」という。)の教員に対して行った厳重注意は、「不適切な性教育」を理由にするものであって、このことは子どもの学習権およびこれを保障するための教師の教育の自由を侵害した重大な違法があるので、これらを撤回せよ。
2 教育委員会は、同委員会に保管されている七生養護学校から提出された性教育に関する教材一式を、従来保管されていた七生養護学校の保管場所へ返還し、同校における性教育の内容および方法について、2003年7月3日以前の状態への原状回復をせよ。
3 教育委員会は、養護学校における性教育が、養護学校の教職員と保護者の意見に基づきなされるべき教育であることの本質に鑑み、不当な介入をしてはならない。
警告の理由
第1 子どもの人権救済申立の内容
当会が受理した2004年1月7日付申立人山田洋次、小山内美江子、斎藤貴男、川田悦子、堀尾輝久、蔦森樹、朴慶南ほか総数8125名にかかる「子どもの人権救済申立」の内容は、以下のとおりである。
1 事案の概要
七生養護学校においては、同校における知的障害を有する子どもたちへの性教育の内容、方法について、10年以上前から、学校内に研究会を設けて教職員が調査、研究を重ね、保護者の意見も聴取しながら、カリキュラム、教材の開発を行ってきた。
同校の性教育の実践については、外部にも報告され、評価を受けてきた。
2003年7月2日、東京都議会において、小中学校、養護学校における性教育についての質疑が行われた。7月4日、教育委員会と、東京都議会議員(以下「都議」ともいう。)3名、日野市議会議員2名が七生養護学校を訪問し、性教育の内容、方法について、校長、教頭らから事情を聞いたうえ、同校の保健室に保管されている教材を提出させ、調査した。この際、同行した新聞記者が同校内に立ち入り、これらの教材を並べて写真撮影し、翌日の新聞に記事として掲載している。
教育委員会は、これらの教材を同校長から提出させて、委員会にて保管している。
また教育委員会は、7月9日、同校の教職員全員からの事情聴取を実施した後、「都立盲・ろう・養護学校経営調査委員会」を発足させて、不適切な性教育が行われていたこと、学級編成、服務規程違反の実態があることの報告を受けた。同年9月4日、教育委員会の指導にしたがい、性教育全体計画が作成され、保護者への説明がなされた。9月11日、教育委員会は不適切な性教育や服務規程違反などの理由により、七生養護学校の教職員を含む学校管理職37名、同教員等65名、教育庁関係者に対し、停職、降格、減給、戒告、文書訓告、厳重注意などの処分を行った。
教育委員会は、七生養護学校において行われてきた性教育の意義、必要性、効果などについて、現場の教員や保護者の意見を十分に尊重することなく、これを不適切として、同校教職員や保護者によって、開発されてきた教材の使用ができないようにし、性教育の内容を大きく変更することを処分をもって強要した。
これらの事実は、知的障害を持つ子どもたちに、性についての正しい知識を獲得し、心と体の大切さを学ばせたいとする教員および保護者の教育権を著しく侵害し、これらの教育を受ける子どもの権利を侵害したものである。
2 申立の趣旨
申立人が求めた申立の趣旨は、以下のとおりである。
1)人権侵害の事実
東京都立七生養護学校において、隣接する都立入所施設七生福祉園や通学生の保護者
と話し合いを重ね、何年間も試行錯誤しながら進められてきた性教育「こころとからだの学習」について、東京都教育委員会は、
(1)十分な調査をすることなく一方的に不適切等と非難し、
(2)教材を没収し教材の使用を禁止して授業をできない状態にさせ、
(3)不必要かつ執拗な事情聴取等を行うなどの事実上の圧力を加えて教師らを
萎縮させ、指導を困難にし、
(4)校長職にあった教員を降格にするなど不当な処分を行い、また、このことに
よって事実上当該教育を継続できないようにし、
(5)報道機関の適正を欠く取材を許し、また事実に反する報道を放置し、正当な
批判・抗議をしない不作為により、生徒の教育を受ける権利及び名誉、保護者の子ども
に対して教育を行う権利及び名誉、教師の教育の自由及び名誉を侵害した。
2)以上の人権侵害に対して、東京都教育委員会に対して
(1)@没収物について早急に返還をすること
A教材(からだうた等無形の教材も含む)の使用禁止の処置を早急に止める
こと
B元校長ら職員に対する不当な処分を撤回すること
C報道機関の真実に反する報道に対して是正を求めること
の勧告を求める。
(2)@教師らに対する不要な事情聴取等による圧力を加えることのないこと
A報道機関に対する偏ぱな対応をしないこと
の警告を求める。
第2 調査の経緯及び内容
2004年1月7日
人権救済申立を受理後、子どもの人権救済センター第3部会が配点を受け、両性の平等
に関する委員会及び高齢者・障害者の権利に関する委員会委員の参加を得て、調査部会を
組織する。
2004年3月19目
申立人代理人からの事情聴取
申立に至る経緯、申立の趣旨の補足説明等を聴取した。
申立人が不当と主張する処分について、都教委は「不適切な性教育」と「服務規程違反」を理由としているが、部会としては、申立人が「不適切な性教育」が処分の理由とされたことを問題としていることを確認した。したがって、部会の今後の調査についてはこの点に限定して行うものとし「服務規程違反」の有無、当否等については、調査を行わないこととした。
2004年4月19日,同月30日
申立人保護者、子ども及び申立人教職員からの事情聴取
申立人保護者及び子どもからは、七生養護学校で行われていた性教育授業の模様、保護者及び生徒の同授業に対する評価を聴取した。
申立人教職員からは、自ら或いは他の教職員が実践していた七生養護学校における性教育の内容、同校の取り組み姿勢、保護者の性教育に対する考え方の確認方法、対外的な評価、今回の処分等についての経緯等について聴取した。
2004年5月12日
東京都教育委員会からの事情聴取等
七生養護学校の教職員らに対する処分等の根拠、2003年7月の同委員会委員及び都議の同校訪問の経緯及び訪問時の状況等につき聴取したが、前者については「都立盲・ろう・養護学校経営調査委員会報告について」「都立盲・ろう・養護学校の不正問題に対する懲戒処分等について」等に記載のとおりであると繰り返すばかりであり、性教育を不適切と判断した根拠について十分な回答を得られなかった。後者については、都議の調査権に基づくとし、都教委として独自の立場に基づくか否かは明確ではなかった。
2004年5月18日
七生養護学校における同校現副校長、事務室長及び教職員らからの事情聴取
副校長及び事務室長からは、従前の同校の性教育実践の内容及び学校側の方針、2003年7月の都議及び教育委員会の来校時の状況等について聴取を試みたが、詳細は東京都教育委員会から聞いて欲しい、それが正しいとの返答であり、実質的な回答はほとんど得られなかった。
教職員らからは、今回の処分等以前に受けた調査の内容、都議来校以後の同校での性教育実施の制約状況等について聴取した。
2004年5月29日
東京都教育委員会への書面による再質問
前記のとおり、東京都教育委員会及び七生養護学校から実質的な回答が得られなかった事項が相当あったことから、書面により、2003年7月の七生養護学校への訪問の経緯、訪問時の状況、性教育ないしその教材について不適切と判断した根拠等について再度質問した。
2004年6月4日
上記質問に対する東京都教育委員会からの回答
現在七生養護学校に関して訴訟が提起され、係争中であるため、回答を差し控えるとの回答であった。
2004年8月6日
東京都議会議員らへの面会申し入れ及び書面による質問
同月20日に都議らの代理人弁護士より連絡があり、面会に応じるか等検討するとの回答を得た。
2004年10月19日
上記に対する回答
事情聴取に応じることはできないとの回答であった。その理由として、第1に七生養護学校の視察は都政及び市政調査権を行使するため議員として活動する権能と義務があるが、その範囲内での行為であること、第2に本件では既に申立人らが東京都教育委員会に対して提訴していると聞いており、個別の回答は適当でないとのことであった。
第3 認定した事実
1 2003年7月2日以前の都立七生養護学校の性教育実施状況
(1)同校においては、性教育は昭和46年の開校以来行われてきた。しかし、1999年夏に、同校が併設されている七生福祉園からの入所生同士による性的問題行動か判明し、従前行われてきた性教育の妥当性・有効性を振り返る契機となった。
(2)上記事件後、同校と七生福祉園との間で「学校・福祉園との性教育連絡会」が設置され、さらに同年10月には同校内に「性教育検討委員会」が設置され、両会議において性教育が有効適切になされるための授業内容、発達段階に応じた教育等について話し合われた。その結果、問題行動が起きたときの対症療法的な指導ではなく、性に関して必要な指導をしつつ(例えば、男子生徒の精通指導や、女子生徒の月経指導等)、生徒が自己肯定感を持ち自分の心と体に向き合えるようにする指導の必要性が認識された。
また、各学年が不統一に性教育の授業を進めるのではなく、統一的に連携を取って行われることが必要であることが認識された。
(3)このような経緯を経て、同校の新たな性教育の実践が始まった。
知的障害を持つ子ども達は、抽象的な事柄を理解するのに困難を伴うことから、各教諭はこのような特性に応じて、具体的でわかりやすい授業を行うことを心がけた。
また、障害の内容やそれまでの生育歴から各生徒の発達段階は区々であることから、授業実施に当たっては、発達段階が同程度にあると認められる数人単位のグループに分け指導を行った。
具体的な指導内容としては、体の各部位の名称を歌詞にした「からだうた」(性器の名称について「ぺニス」「ワギナ」として含まれている)を授業開始時に歌うことや、段ボール箱にペニス模型をつけ、ペニスの先から液体を出すことができるように内部に管を通してある「箱ペニス」を用いて行う精通指導、母親の子宮の中の心地よさを体験し、生まれる瞬間を体験する「子宮内体験袋」の経験、ぺニス、ワギナが付いている人形「スージー&フレッド人形」を赤ちゃんと見立てて抱かせること等が挙げられる。
(4)なお、性教育実践がより実のあるものとなるために、授業風景を他の教諭がビデオ撮影をし、他の教諭も閲覧できるようにしたり、保健室を指導教材等の保管場所にし、各教諭が性教育に閲する情報の共有を図るとともに教材を相互に利用可能となるようにしていた。
また、教材については、学校予算から購入されるものもあれば、学外の教育基金から購入費用を賄うこともあり、各教諭が自弁で制作したものもあった。
(5)性教育の実施にあたっては、保護者等の理解も必要であるところ、同校においては生徒の約半数は親元を離れて七生福祉園から通学しており、上記のとおり七生福祉園との間では性教育連絡会が定期的に開催され意思疎通がなされていた。
また、自宅からの通学生については、授業の事前に実施予定の授業内容を記した連絡文書(「さわやかアップ」)を、事後に実施中の生徒の様子を個別に記した連絡文書(同)を、各保護者に配布し、意見のある保護者については返信欄に記載することにより教諭に対して意見を伝えることができる仕組みとなっていた。
(6)これらの同校の性教育実践は従前優れていると評価されており、1999年度及び2000年度の心身障害教育夏期専門研修(東京都知的障害養護学校校長会及び同教頭会が主催、都教育庁学務部義務教育心身障害教育課が後援)に連続して取り上げられた。その内容について、これまで主催者、後援者サイドはもちろんのこと、東京都教育委員会(以下「都教委」という。)からも何ら異議はなかった。
2 2003年7月2日以降の状況
(1)2003年7月2日、東京都議会において、都議会議員(以下「都議」という。)から都教委に対し、東京都立養護学校における性教育のあり方について質疑が行われた。
(2)同月4日、都議3名と日野市議会議員数名、都教委の指導主事らが、七生養護学校を視察した。産経新聞記者が同行していた。都議、指導主事らは、校長、副校長らと面談のうえ、同校の保健室に入室した。保健室内では、主として、都議3名が養護教諭に性教育の教材について質問し、保管してある人形、本などを提示するよう求めた。都議らの言動には、性教育をはなか
ら批判し、また養護教諭らの人格を無視するような内容が含まれていた。例えば、「あなた、体うたを宴会で歌えるんですか?感覚が麻痺しているよ!」であるとか、養護教諭が、ある都議が性教育のファイル等を持っていこうとしたことから、何を持っていくかを記録したいので教えてくださいと質問したところ、「何を持っていくかは俺達が責任をもって持って行くんだから、馬鹿なことを言うな。俺たちは、国税と同じだ。
生意気なことを言うな。このわけのわからない2人(質問した養護教諭ら)は出ててもらってもいいんだ」等のごとくであった。この間、都教委、校長らは保健室内にいたが、都議らの質問を何ら制止しなかった。また怪我の手当てを受けるために保健室
に入ってきた子どもたちは、養護教諭がいじめられているのではないかと心配し、動揺していた。
(3)都議らは、提示を受けた人形等を床に並べ、ズボンやスカートをずらして性器等をあらわにするように置いて、これを産経新聞記者が写真撮影をした。この間、都教委、校長らは、保健室内にいたが、同記者に対し何ら制止をしなかった。この写真は、7月5日付の同紙に記事とともに掲載された。
(4)別紙一覧表記載の教材は、後日都教委がこれを校長から提出させ、現在に至るまで、保管している。なお都教委は、これら保管中の教材を、都議や報道関係者等に見学させている。
(5)7月9日、都教委により、全教職員の事情聴取がなされた。前日に校長から、事情聴取に応じるようにと、職務命令が出されていた。当日、37名の指導主事が来校し、
2名ずつで17組にわかれ、教職員1名あたり約30分間の聞きとりを行った。質問は、「不適切な性教育であるかどうかを調査するため」という目的で、「ことさら性器を強調した人形」等といった表現が使われていた。質問項目は全員ほぼ同様だった。
何らかの処分を前提とした聴聞という説明はなかった。またこの時点では、後日問題とされる服務規程違反等についての質問はなかった。
(6) 7月15日、都教委は、「都立盲・ろう・養護学校経営調査委員会」を発足させた。
性教育の問題のほか、学級編成、服務規程違反が問題とされ、すべての都立盲・ろう・養護学校に監査が入り、校長ら管理職の事情聴取が行われた。同委員会は、8月28日に報告を出し、七生養護学校において、組織的に不適切な性教育が行われていたこと、学級編成の不正があり、服務規程違反の実態があることなどが報告された。
(7)保護者らに対しては、7月9日、17日、9月4日にそれぞれ保護者会が開かれ、説明がなされた。この間、一部の保護者は、東京都教育長等に対し、七生養護学校の性教育の意味を認め、続けることができるよう、要請行動を行っている。
(8)都教委は、7月29日付で「東京都立学校経営アドバイザー設置要綱」を施行し、8月1日付で、七生養護学校に1名のアドバイザーを配置した。
(9)都教委は、七生養護学校に対し、9月1日付通知を交付した。授業内容について、1週間毎の授業案(週案)を作成、提出することを求められ、管理職が、事前に内容について指示を出すようになった。特に性教育について、細かい指示が出された。
(10)9月4日、都教委の指導にしたがい、性教育全体計画が作成され、保護者に説明された。
(11)9月11日、都教委は不適切な性教育や服務規程違反などの理由により、七生養護学校の教職員が含まれる養護学校管理職37名について、停職、降格、減給、戒告、
文書訓告、教員等65名について、口頭による厳重注意、教育庁関係者について、戒告、文書訓告の処分を出した。このうち明確に「不適切な性教育」を理由として行われた処分は、七生養護学校13名、調布養護学校1名、立川養護学校1名、江戸川養護学校1名、町田養護学校4名、石神井養護学校1名の合計21名の教員に対する「厳重注意」であった。
(12) 9月17日、都教委は「障害のある児童・生徒の性教育に関する実施指針」を示し10月6日に七生養護学校内の研修会を行った。
(13) 11月14日付で七生養護学校内で、「今後の性教育の指導について」が作成された。
従前の性教育と比べると、内容、指導時間、指導形態などに、大きな変化が生じた。
すなわち、指導時間は大幅に短縮され、内容、指導形態については、ペニス、ワギナ、性交といった言葉の使用が事実上禁止された他、人形や模型等を用いた指導を行うことが禁止され、図等の平面教材についても使用が著しく制約された。
第4 七生養護学校の性教育について
1 性教育の必要性について
(1)性に関する問題は人間の根源に関わる問題であり、性に関する基本的事項は科学的に正しく教える必要がある。現在マスメディアによる性に関する情報の氾濫、インターネット等による性情報への接近の容易性、価値観の多様化等から、性行勁、性体験の低年齢化か進んでいるうえ、HIV
等性感染症も広がりをみせている。児童生徒が心身ともに健やかに成長することや生命の大切さを認識することは重要かつ緊急の課題となっており、学校、家庭、職場、地域等さまざまな場面で性教育が必要となっている。
(2)知的障害者については、男女のからだの仕組みや体の発達の相違を理解することが不十分であったり困難であったりする。身体の変化を素直に受け止めることができず、パニックをおこす児童生徒も少なくない。また自己の性に関する悩みや不安を的確に表現することができない場合も多い。そのため、知的障害者に対しては、教材等を工夫し、具体的でわかりやすい性教育が求められている。また、知的障害者が性の被害者になったり、場合によっては性の加害者になることがありうる。性被害と加害の防止という観点からも性教育が必要である。
(3)西欧諸国では早くから性教育の必要性と重要性が指摘されており、例えばスウエーデンでは、1955年に性教育の義務化が実施され、1975年からは人間関係の教育という名称で、具体的実践的な性教育の取組がなされるようになった。またオランダでは、幼児の段階からわかりやすい絵や人形を用いて、科学的な性教育が行われてきた。
2 性教育に関する政策経過(七生養護学校問題発生前)
(1)1947年6月、純潔教育の実施について文部省(当時・以下同様)から通達が出され、「純潔教育委員会」が設置された。ここにいう「純潔教育」は「性教育」と同義と考えて特にさしつかえはない。時は終戦直後の混乱期であったが、そのような中文部省は「純潔教育」の重要性を認め、文部省独自の構想としてそのありかたの研究に取り掛かっていたといえる。
(2)1955年5月、純潔教育分科審議会は「純潔教育の進め方(試案)」の中で、その意義・目標等につき「純潔教育の進め方(試案)の編成について」を発表した。そこでは、従来純潔教育に対する危惧として、@従来完全にタブーとしてきた内容を取り上げることはまさに眠れる子を起こすもので、逆に性的無秩序に拍車をかけるのではないか、A性に関しては自然のうちに認識し経験をつんで各人の心構えができてゆくのであるから、放っておいても良い、むしろ環境改善に力を入れるべきである、という2つの意見があることを紹介していた。
そのうえでこの意見に対して、@の危惧については「今日の環境から、ゆがめられた形で植えつけられるまま放置するよりは、むしろ積極的に正しい教育を考え、実施することこそ最善の策であることを確信」すると反論し、Aの危惧については「いわゆる大衆の声として成人男子の間から聞かされる例が多いが、これは、昔と今日の時代の相違を無視し、昔ながらの習俗的な意識から一歩も出ない、はなはだ危険な考え方というべきであります」と反論している。
(3)1986年3月文部省「『生徒指導における性に関する指導』について」が刊行された。
ここでは以下のように述べられている。「学校における性に関する指導には、学習指導要領に基づき各教科、道徳、特別活動において行われる面とその基盤作りや補
完としての生徒指導として行われる面があり、この両面から学校の教育活動全体を通じて行われなければならない。」「現在、学校における性に関する指導は、生徒の発達段階に応じ、保健体育、道徳、学級指導、ホームルームなどを中心に行われているが、初めに述べたような状況(性的成熟が早まり、その一方で生徒の健全な発達をゆがめるような性的情報が社会中に存在していること)の中で、性に関する科学的知識を与えるとともに、人間尊重の精神に基づいて生徒が健全な異性観を持ち、これに基づいた望ましい行動を取れるようにすることなどを重点に、地域や学校に実態に応じて、生徒指導における性に関する指導を体系的にかつ組織的に展開することが求められている。文部省では、このような考え方に立って、「生徒指導における性に関する指導」を作成したものである。」
(4)東京都においては、1985年から1988年にかけて、都教委から「性教育の手引き第1集〜第4集」(基礎編、幼稚園・小学校編、中学校・高等学校・養護学校編、総合編)が刊行され、また、1989年から1992年にかけては、都教委により小学校低学年から高等学校までに対応した「性教育教材ビデオ」が製作されていた。
その他の自治体も、たとえば1990年3月、埼玉県教委が「性に関する指導の手引」を作成している。その第1章総論部分では、性が果たしている役割の重要性を認識し、性に関する指導は生涯教育、人間のライフサークルにあわせて、学校、家庭、地域社会の三者一体となって行うべきであると明確に述べている(2〜3頁)。
また、第2章実践編では、小学校における性に関する指導として、わたしのからだ(1年)と題する部分で、「成長には個人差があることを理解させる。男女の性別はそれぞれがもっている性器で決定されることを知らせるとともに性器の大切さ
を理解させることや自分の体を大切にする態度や、自分と同じように友達を大切にする態度を育てること」が指摘されている(47頁〜49頁)。
なお、障害をもった児童生徒に関しては、学校差が大きく、個人差もあるので、「性に関する指導一般論の目標を掲げたが、学校によって児童生徒の実態から内容を選択作成してほしい」としている(188頁)。
(5)1990年度及び1992年度には、都教委により「東京都性教育推進校報告書」が作成され1993年度にも「性教育推進委員会報告書」が作成され、性教育に関する積極的検討が進められていた。
(6)これらを受けて、1995年3月、都教委は「性教育の手引(小学校編)」を作成し、その基礎編で性教育の基本的な考え方を述べた。その見解は学習指導要領をふまえたものと理解されている。
上記手引きでは、平成6年3月都教委作成の性教育推進委員会報告害「東京都の性教育推進のために」の中の統計を引用し、「学校における性教育の必要性を意識する教員一約90パーセント、性教育の実践状況一小学校87・6パーセント、中学校54・6パーセント、学校として指導計画を作成している−18・2パーセント」であることを前提に学校としての組織的な取組は必ずしも十分でないとしたうえ、「学校における性教育の推進のためには、教員の性教育に関する考え方の共通理解を図るとともに、学校として組織的、計画的な実践を進める必要性がある」と強調している(3頁)。さらに、「学校は児童生徒が社会や文化の変化に自ら対応していくために必要とする性に関する学習課題や保護者や国民が学校に期待する性教育の内容を計画的、継続的に行う必要がある」と言い切っている(12頁)。
上記手引きの小学校編では、性教育の授業の実際(実践事例)が記載されている。
「第1学年の学級活動 男の子・女の子」と題する部分では、「性器は体の器官のひとつであり、大切な働きをしていることに気づき、性器を大切にする心情や態度を身につける。男女の性器は赤ちゃんをつくるしくみが備わっている大切な器官であることに気づかせる。男女にはそれぞれ体に特徴があるが、人間として同じように大切であることがわかり、自己の性を大切にし、男女の別なく仲良くしようとする態度を身につける」と明記されている(60頁)。
1996年3月には、東京都教育委員会から「性教育の手引き(中学校編)(高等学校編)」も発行された。
(7)1997年3月、都教委は「性教育の手引き(盲学校、聾学校、養護学校編)」を作成し、養護学校(知的発達障害)における性教育の必要性と実施について述べている。当然のことながら、ここで示された見解も学習指導要領をふまえたものであった。上記手引きの盲・ろう・養護学枚編と題する部分では、知的障害者がおかれている状況をふまえ、「知的発達に障害がある場合、男女の体の仕組や心身の発達による個人の違いを正しく理解することが困難なことがある。自他の性を認識することが難しい場合もある障害のある児童生徒が性について、強く興味を示しているのではないかと誤解されたり、性的に被害者になることがある。性被害と加害の防止の視点から指導が必要になる」と指摘している(57〜58頁)。
上記手引きの養護学校(知的発達障害)における性教育と題する部分では、「身辺処理等を自分で行うことが困難であったり、自ら進んで、取り組める状況が不十分なため、自分らしさを発揮できないでいる児童生徒がいること」を指摘したうえ、性に関する指導においては、「基本的生活習慣の確立と性に関する学習を通して、自己の性についての認識を確かなものにするとともに、他人への認識を深め、社会性や人間関係を育成することが大切である」と述べている(100頁)。
また、指導計画作成の留意点としては、「性教育は児童生徒の障害の状態や特性及び学校の実態にあわせて、人格形成を促していくための教育活動の一環として、学校の教育活動全体を通して、意図的、計画的に行う必要がある。生活年齢や発達段階に応じて、日常生活で実際に生かせるよう、繰り返し指導することが重要である」と学校の実態等に則した教育の実施を肯定している。
小学部低学年の留意点としては、「排泄の自立や入浴の指導を通して身体の清潔や見出しなみ、男女の違いなどを学習することが必要 幼少期から性に関する認識の高まりを意識して指導することが大切」とされている。
小学部高学年の留意点としては、「低学年の内容に加えて、二次性徴に対応した個別の指導と男女の交際の基礎となるエチケットやマナーを身につけていくようにすることが必要」だとされている。
中学部の留意点では、「月経や射精などにも対応できるようにすることや、自慰や性器に関わってエチケットやマナーの適切な指導が必要。小学部で学習した内容についても方法を工夫し、繰り返し、学習することも大切」と指摘されている(100〜101頁)。
(8)文部省からは、1999年3月31日、「学校における性教育の考え方、進め方」が発行された(甲141)。ここで文部省も「性教育」という語を使用し、「学校における性教育は、児童生徒等の発達段階に応じ、学習指導要領に基づいて、体育科、保健体育科、道徳、特別活動などを中心に行われています。しかし、現在、性に関する科学的知識を与えるとともに、人間尊重の精神に基づいて児童生徒等が健全な異性観を持ち、これに基づいた望ましい行動を身に付けさせるようにすることなどを重点に、学校、家庭、地域が実態に応じて、性教育を組織的かつ体系的に展開することが求められています。」とし、国の性教育に対する基本的な考え方を明らかにした。
ここでの見解は、学習指導要領をふまえて具体的にわかりやすく解説したものと理解されており、今日まで変更修正されていない。なお、学習指導要領そのものは全国的な大綱的基準を示したにとどまり、記載されている事項だけを教えれば足りるというものではないし、記載されていない事項は一切教えてはならないというものでもない。
同省は性教育の目的について、「学校における性教育は児童生徒の人格の完成と豊かな人間形成を目的とし、人間の性を人格の基本的な部分として、生理的側面、心理的側面、社会的側面などから、総合的にとらえ、科学的知識を与えるとともに、
児童生徒が生命尊重、人間尊重、男女平等の精神にもとづく正しい異性観をもつことによって、自ら考え、判断し、意思決定の能力を身につけ、望ましい行動をとれるようにすることである」と明確に述べている(9頁)。
幼稚園の部分では、性に関する発達課題と指導内容として「男女の体の違いに気づかせ、自分が男の子か女の子かの認識を確かにさせることが大切である。性器の大切さを知らせ、排尿、排泄の習慣やエチケット、体や性器の清潔保持の習慣を身につけさせる必要がある」と踏み込んでいる(31頁)。
知的障害の児童生徒に対する性教育については、「児童生徒の障害の状態や各学校の実態を考慮し、全教育活動を通じて、体系的計画的に行う必要がある。特に性教育を通して日常生活の基礎的や基本的事項について身につけさせるとともに、自己の性についての認識や他人への認識を深めることが大切である。更に、社会性や男女の豊かな人間関係を育て、将来を積極的に生きていこうとする意欲や態度を育てることが重要である」と指摘している(47頁)。
各発達段階における指導上の配慮事項としては、「障害の状態に応じて、重点化を図ったり、個別化を図るなど指導に工夫が必要である。また学習した内容が日常生活で実際に生かせるよう繰り返し指導する必要がある」と述べている。
教材選択にあたっての配慮事項としては、「理解力に個人差が大きいため、多様な教材を準備することが求められる。用語についても難解なものはさけ、理解したり、イメージしやすいように工夫する必要がある。絵図や模型、視聴覚教材などできるかぎり具体的な教材を用いることが大切である」としたうえ、「現状では、障害に配慮した教材は少ないため、今市販されている教材を児童生徒等の実態にあわせて加工したり、新たに独自に教材を開発することも必要である」と弾力的な対応を認めている(47頁)。
(9)2001年には、厚生省(当時・以下同様)が2010年までの運動計画として「健やか親子21」を立ち上げた。ここでは思春期の健康と性の問題を正面から取り上げ、性教育充実の必要性をはっきりと打ち出している。
ここでは、以下のように述べられている。
「思春期における問題行動は、本人の現在の問題に留まらず、生涯にわたる健康障害や、時には次世代への悪影響をも及ぼしかねない問題であり、それを当事者に理解させ、問題行動の是正を図ることが必要である。そのために、家庭、学校、地域等の連携による教育・啓発普及・相談等を通じて、問題の理解と情報の提供を目
指すことになるが、これまでの同種の試みが十分な成果をあげられていないことに鑑み、十分な量的拡大と質的転換を図っていくことが不可欠である。」「質的転換に関しては、まず教育・啓発に当たってより明確なメッセージをできる限り効果的に提供する教材、媒体、教育手法の開発を急ぎ、思春期の性の逸脱行動や薬物乱用なの行動が望ましくないことを理解させ、行動変容につなげることが必要である。特に、性教育については、男女の関係や相互理解の必要性を説明するとともに避妊方法等も含めた説明も避けることなく行うべきである。また、生命の尊さや自分たちが将来、子育ての当事者になることの自覚を促すことも必要である。」
「性と生殖に関しては、自ら判断し、決定し、相互に尊重するということが特に重要である。このため、自分や相手の身体についての正確な情報を入手し、自分で判断し、自ら健康管理できるように、学校や地域における性教育や健康教育を一層充実させるよう努める必要がある。性教育は、青少年の性行動が低年齢化・活発化し、また性情報に触れる機会が増大したという現実を踏まえ、思春期の子供の置かれたストレスの多い複雑な状況の実態をよく理解して充実することが必要である。」
3 東京都の政策の変化(特に七生養護学校を巡る変化)
(1)2002年12月11日、東京都議会平成14年度第4回定例会において、川井重勇議員の一般質問として、国立五小の性教育について、小学校1年生の段階から性器の名称等を含む過剰な性教育が行われているとの指摘、その指摘についての教育長の所見等を問い、「一部左翼グループが意図的にやっているとするならば、断じて放置するわけにはいかない。今後の調査等の対応をお聞かせ願いたい。」という質問が行われた。
横山洋吉教育長は「今回国立市の小学校で行われた児童の発達段階を踏まえない性教育が児童に混乱を与え、保護者の信頼を失わせた事態を重く受け止めております。」「都教育委員会は、今後区市町村教育委員会に対し、性教育についての指導の徹底と、問題が発生した場合の速やかな対応と報告を求める趣旨の通知文を改めて出しまして、各学校における性教育が学習指導要領の趣旨に基づいて適切に行われるよう、指導助言に努めてまいります。」「新学習指導要領の趣旨を踏まえた性に関する指導要領を新たに作成いたしまして、組織的、計画的な指導が行われるよう、区市町村教育委員会との連携協力を図ってまいります。」「今後、指導主事が性教育等のさまざまな教育課題についてより一層の適切な指導、助言を行うよう、全都の指導主事連絡協議会等において徹底を図ってまいります。」などの答弁を行った。
(2)2002年12月18日には都教育庁指導部長名で「学校における性教育の指導について(通知)」が、区市町村教育委員会および各都立学校あてに通知された。
その内容は、「学校における性教育の実施に当たり、一部に児童・生徒の発達段階を十分に踏まえない内容の授業が行われている状況があります。」「学校における性教育が適切に行われるよう、下記の内容について教職員へ指導の徹底をお願いします。」とするもので、性教育の指導につき学校全体の指導計画に基づく組織的・計画的な指導のほか、学習指導要領及び児童・生徒の発達段階に即した指導を行うこと、指導の充実に向けて保護者との連携を図ること、都教委との連携を図ること、を徹底するよう通知したものであった。
(3)2003年2月14日の都議会平成15年度第1回定例会で古賀俊昭議員の質問が行われた。ここでは、ジェンダーフリーと過剰性教育について、「日本人の人格自体を破壊し、日本や家庭という共同体を敵視した新たな革命運動」として非難し、性教育について都教委の姿勢と今後の是正に向けた具体策を問う質問がなされた。
横山教育長からはこれに対し、すでに各都立学校長及び区市町村教育委員会宛に通知をしたことの報告と、今後平成15年度中に「性教育の手引き」を改訂するなどの答弁がなされた。
(4)2003年5月、都教委は「性教育に関する指導資料」を発表した。ここでは「子どもたちを取り巻く性に関する問題解決に取り組むため、性教育の実践がなされている一方で、一部に学習指導要領や児童・生徒の発達段階を踏まえないような内容の授業や保護者との連携:協力が十分図られていないなどといった教育活動上の課題も存在しています。」「今回作成した『性教育に関する指導資料』は、学校における性教育の基本的な考え方と指導計画の作成や実施上の留意点を示すとともに、性教育の目標や年間指導計画の例を具体化したものです。」とされ、「今後各学校における性教育がより適正に行われるよう、先の『新たな性教育プログラムの開発』及び『性教育に関する指導資料』の内容を受け、平成15年度中には、従来の『性教育の手引き』を全面改訂いたしますので、それぞれの資料をご活用いただき、性教育の推進・充実にお役立ていただくことをお願いいたします。」と記載されている。
(5)2003年7月2日、都議会平成15年度第2回定例会で土屋敬之議員は一般質問として、「からだうた」「スージーとフレッド人形」等の教材を例に取り、都立学校で過剰性教育がなされていると述べ、「こうしたことを解消するには、学校管理に関して、単に責任を校長に押しつけるのではなく、320人いる指導主事の活用を図り、都教委が直接、あるいは区市町村教育委員会と協力して、教員を直接指導する必要があると考えます」と述べたほか、週案の提出や教材購入のチェック体制などについての質問を行った。これに対して、石原慎太郎東京都知事が「全ての先生がそうとは申しませんが、しかし、そういう異常な何か信念を持って、異常な指導をする先生というのは、どこかで大きな勘違いをしているんじやないかと思うんです。」「強力な仲介役として、私は、教育委員会が今以上にアクティブに活躍していくことを期待しております。」と答弁し、横山教育長は従来と同様の答弁を繰り返したほか、今後も性教育の実施状況につき調査を行い、またより一層適切な指導を行う、週案作成や教材選定等についても適正な実施の徹底を行うといった内容の答弁を行った。
4 七生養護学校における性教育の評価
(1)七生養護学校で具体的に行われていた性教育は前記第3・1で認定したとおりである。
(2)七生養護学校に限らず近年性教育の必要性は強く認識され、現場レベルでの試行錯誤が繰り返され、文部科学省や東京都など各地方自治体も、性教育の必要性を認めその内容面の検討に積極的であった。そして七生養護学校での性教育の実践も、同校で実際に起こった性的問題行動を直接の契機として性教育の重要性を認識し、開始されたものとその動機が認められ、社会背景ともリンクしたものであった。
(3)その七生養護学校で行われた性教育の内容について、今回、とくに学習指導要領上、小学校第5学年理科で「受精にいたる過程は取り扱わないこと」とされていたり、中学保健分野で生殖機能について「妊娠の経過は取り扱わないものとする」とされていることなどに照らし、教材などによっては出産を早期に具体的に教えることを目的とするものであるから生徒の発達段階を踏まえないものであり不適切であるなどの批判がなされている。
しかしそもそも学習指導要領は、先に述べたとおり、全国的な大綱的基準を示したにとどまるものであり、記載されている事項だけを教えていれば足りるというものではないし、記載されていない事項は一切教えてはならないというものではない。
そして知的障害児教育には、その特性に応じた特殊な配慮をする必要が高い。
「盲学校、聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領」(平成11年3月文部科学省告示)第1章(「総則」)では、「学校において特に必要がある場合には、第2章(「各教科」※筆者注)以下に示していない内容を加えて指導することができる。」「知的障害者を教育する養護学校においては、各教科(小学校においては各教科の各段階)に示す内容を基に、児童または生徒の発達段階の遅滞の状態や経験等に応じて、具体的に指導内容を設定するものとする。」などの記載がある(「小・中」3頁)。また「盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領(平成11年3月)解説一各教科、道徳及び特別活動編−」(平成12年3月文部省発行)によれば、「知的障害の特性及び学習上の特性等」として、「抽象的な指導より、実際的・具体的な内容の指導がより効果的である」(3
6 9頁)、「生活に結びついた実際的で具体的な活動を学習活動の中心にすえ、実際的な状況下で指導する」「教材・教具等を児童生徒の興味・関心を引<ものにし」(3
7 0頁)などの記載がある。総じて、養護学校での知的障害児教育においてこれらの観点からの工夫が必要であることはすでに共通理解となっていると思われる。
(4)そこで、争点となりうるのは、今回七生養護学校で行われていた「心とからだの教育」と称する性教育がこれらの観点から妥当なものと評価できるか、適切さを欠くものとされるかである。この点、少なくとも学習指導要領の法的性格からして、「学習指導要領に記載がない」ということの一事を持って適切さを欠くということはできない。そして適切性判断のメルクマールとしては、学習指導要領外の事柄を教えること(目的)に合理性があったか、その教育目的のために当該具体的教材を使用すること(手段)に合理性があったかということが問題になる。
まず、教育目的として性器の名称を小学部1年から教えることの是非についてであるが、性器の名称を覚えることについては、その部分がからだの重要な部分であるとの意識を与えることが重要である。特に性犯罪の被害者または加害者になる危険を回避させなければならない知的障害児にとってはこの点は早期に対応し、植え付けなければならない知識であるとの教員の説明は首肯させるに十分なものがあり、この点では、小学部1年から「からだうた」を歌うことが一概に不適切と断定することはできない。
次に、教育手段としての「からだうた」の使用については、そもそもの使用動機は、性教育の時間を開始するにあたりその意識付けをするための区切りになる歌が必要との趣旨で作成されたものであるという。漫然と授業を受けるのではなく授業内容が意識の中に残るための工夫として、その動機は正当である。その歌詞の内容であるが、小学部1年から性器を触りその呼称を歌うことの合理性であるが、まずからだのほかの部位と続けて性器も触りながら歌うことは実際的具体的な教示法であり、上記学習指導要領の記載にも沿ったものであると評価でき、目的と手段は合理的関連性があるものといえる。
(5)教材については、「子宮体験袋」「箱ペニス」「スージー&フレッド人形」などが問題視されているので、これらについて検討する。
この点につき、教育目的については、「子宮体験袋」は、通常に比して被虐待児になることが多い知的障害児について、予どもの自己肯定感、生きることへの自信を養うために、自分がどのようにして生まれてきたか、出産のすばらしさを体感とし
て教えることを目的とするものとの説明であり、その説明は合理的であり、その目的と手段としての道具の関連性も合理的である。教材についてはすでに述べたとおり実際的具体的であることが望まれ、その点でも合理性が認められるほか、上記学習指導要領の記載にも沿ったものであるとも評価できる。
「箱ペニス」については、精通の指導用とのことである。精通は男子生徒にとっては重要な教育課題であり、教えないままというわけには行かないことは明白である。そして精通指導時に具体的に何を指導しているのかをわからせるという教材使用目的があり、その目的と手段としての道具の関連性も合理的である。教員の説明によれば、このように具体的な道具を使わなければ、生徒の中には何について先生が話をしているのかまったく理解できない生徒もいるとのことである。そのような生徒に対し、具体的なビジュアルイメージをもって説明することは必要であり、上記学習指導要領の記載にも沿ったものであるとも評価でき、この教材についてもその使用が不適切であると即断することはできない。
「スージー&フレッド人形」については、ほとんど使われたことはないが、赤ちゃんについて教えているときに、具体的に重さ、形などイメージでわからせ、生徒に実感させるために単なる赤ちゃん人形として使用したということである。少なくとも、写真(新聞報道)でとられたように下半身の性器部分を露出するなど性器を強調して使用することはありえないとのことであった。上記のような使用形態であればその教育の必要性、教育目的と使用教材の合理的関連性ともに認められると考えられ、上記学習指導要領の記載にも沿ったものであるとも評価でき、これも不適
切と即断することはできない。
(6)以上検討した結果、七生養護学校で行われていた性教育「心とからだの学習」は、「盲学校、聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領」「盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領(平成11年3月)解説−各教科、道徳及び特別活動編−」の趣旨に反するということもできず(むしろその趣旨には一致しているとすら評価できる部分が多い。)、知的障害児教育の特殊性を考慮に入れると、児童の発達段階と照らして不適切と判断することはできないし、従前の性教育政策とも同趣旨であって、少なくともこれに明確に反したものではなかった。むしろこのように検討すると、従来の方針から急転換したのは東京都の性教育政策の方ではないか、という
印象すら与えるものである。
第5 都議会議員の視察の際の都教育委員会の対応について
申立の趣旨には直接現れていないが、2003年7月2目、都議会において、土屋都議らによる公立学校の性教育の問題点についての質疑応答があり、これを受ける形で、同月4日、前記土屋都議ら7名が、産経新聞の記者を同行して七生養護学校を訪問した。土屋都議らは、七生養護学校の保健室等において、教職員に対して、威嚇的な口調で七生養護学校の性教育に批判的な質問をしたり、侮辱的言辞を発した。また、教材である人形を並べさせて、そのズボン等を脱がし、性器を露出させた状態にするとともに、これを同行した新聞記者に撮影させた。
都議会には、議員調査権が認められているが(地方自治法100粂)、具体的な調査権の行使は、個々の都議会議員に対して調査の派遣という形式をとることになる。しかるに、本件においては、都議会が、調査を決定して、土屋都議らを派遣した事実は認められず、それゆえ、本件訪問は、正式な議員調査権の行使ではなく、都議らが言うように、議員調査権の前提としての「視察」の頷域にとどまる行為であると考えざるを得ない。
教育基本法10条は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」と規定する。同法10条は、戦前我が国の教育が国家による強い支配によって不当に歪められてきたことを反省し、教育の自主性、自律性を尊重することを明らかにした規定であり、具体的には、教育の自主性、自律性を確立するため、教育行政が国家権力・公権力による支配に服することなく行われるように教育委員会によって教育を運営していくという教育行政の仕組みを規定したものである。
そして、ここにいう「不当な支配」とは、教育の自主性、自律性を侵害するあらゆる支配を意味することから、議員調査及び視察についても、かかる教育基本法10条の趣旨に従って、教育現場・内容への過度の介入は許されないという制約を受けることになる。
これを本件についてみると、「視察」ということならば当然のこと、仮に調査権の行使であったとしても、授業風景や各教室・校舎その他の設備の見学、中立な立場での質問等にとどめられるべきであり、それを超えて、本件のように教育内容を批判する等政治的意味合いの強い質問はむろんのこと、威嚇的な口調での質問や教材である人形のズボンを脱がすなどの行為は、視察、調査権の行使の域を超えており、これに名を借りた教育現場への行きすぎた介入であると言わざるを得ず、教育基本法10条に反する行為と評価せざるを得ない。
そして、都教委は、前記のとおり、教育の自主性、自律性を守るべ<、教育に対して政治的圧力が加わった場合には、本来政治的支配に屈することなく、これを排除しなければならない立場にあり、当日、都議らとともに来校した都教委指導主事は、都議らの前記教育への問題言動に対して、注意を促し、その介入の程度が著しい場合には断固として抗議して、これを阻止しなければならなかったにもかかわらず、都議らの行動を終始静観して、これを放置していたものであり、かかる都教委の行為は、教育基本法10条に反する行為と言わざるを得ない。
第6 都教委の調査、指導、処分の違法性
1 事前手続きの違法性
(1)本件では2003年9月11日、七生養護学校教員に対し、「学習指導要領を踏まえない性教育を行った」こと等を理由として、都教委より、服務規程違反及び懲戒処分、文書訓告及び厳重注意がなされた。うち13名が不適切な性教育を理由として厳重注意を受けた。
「厳重注意」は、地方公務員法29条の「懲戒処分」ではないが、厳密には法律上の効果を生じるという意昧での不利益処分にあたらないものであっても、それを受けた公務員の人事考課等、職場での評価に重大なマイナス影響を与えるもので不利益取扱いである。
(2)以上のとおり、本件「厳重注意」処分理由は「不適切な性教育」であり、この「処分」理由は教育内容にまで踏み込むものである。
本来教育内容への行政の介入はなされるべきではなく、最高裁もこの点に関 しては抑制的になされるべきと明言する(この点については後述する)。そのような「処分」理由をもとになされる厳重注意は、当事者とすれば、当該注意に反する内容による指導をすることの人事面等への不利益影響を事実上予測せざるを得ないことは上記のとおりである。その不利益を回避するためには教育内容の変化が求められ、それこそが厳重注意が意図するところであることは言うまでもない。
教育は基本的には教師の個性により行われるべきものであるという教育の本質(後記旭川学テ事件最高裁判決参照)から考えると、それを実質的に不可能にするという点て、当該厳重注意は教師の教育の自由への侵害という効果を生み、そのような事態は、ひいては上記教育の本質を失った教育を受けることを事実上強制されるという点で、子どもの学習権を侵害する結果を生む。このようにみると本件厳重注意の効果は非常に重大であって、本件「処分」の不利益性はきわめて強い。
(3)手続き充足の有無・行政裁量の逸脱の有無
@ 行政庁による処分には裁量が認められるとされることから、行政裁量権逸脱という意昧での違法の有無を検討する。そもそも厳重注意のような、直接法的効果を伴わない処分の場合にはより広い裁量に服するものとみることもできるとしても、この点は一律に判断できるものではなく、当該「処分」の実質的効果に照らして考える必要がある。
A 本件の厳重注意の対象は「不適切な性教育」等であり、教育内容にまで踏み込む「処分」理由であった。 本来教育内容への行政の介入はなされるべきではないことは前述のとおりである。そのような「処分」対象に対してなされる厳重注意は、教育内容の変化を必然的に伴うものであり、教育がその特質から基本的には教師の個性により行われるべきものであるという点から考えると、それを実質的に不可能にするという点で、教師の教育の自由への侵害という効果を生み、重大な憲法上の権利を制約するものとして、その効果は非常に重大である。またそもそも教育内容に関する行政手続については、学習権の保障の観点からの裁量の制約が強く、また手続保障がより強く要求されるものというべきである。
これらの点から考えると、厳重注意については、手続きもより厳格に充足される必要があり、また裁量はかなりの程度制約される必要がある。 具体的には、本件についてはまず適正手続きの点では、「告知聴聞の機会」等の事前の適正手続きの十分な付与が求められるべきであり、次に裁量権の逸脱の有無の判断については、明確な処分理由とその合理性が求められるべきである。
B それでは本件においてまず、「告知聴聞の機会」が実質的に認められていたといえるか。
この点については2003年7月9日に全教職員に対して事情聴取がなされている。しかしすでに認定した事実関係によると(第3・2(5)参照)、そもそも質問項目が一定の結論を示しているように読みうるものであって、告知聴聞のための質問として不適切というだけでなく、何らかの処分を前提とした聴聞であるという説明もなかったことが認められる。このような事実関係の下で
は、本件について告知聴聞の機会が十分に認められていたということはできず、その後になされた実質的には不利益を件う厳重注意について、適正手続きの面からみて重大な問題をはらんでいる。
すなわち本件厳重注意については、告知聴聞の機会は実質的に与えられていない疑いがきわめて強い。行政裁量は適正な手続きがなされたことを前提とするものであることは言うまでもなく、本件においてはその端緒すなわち事前手続きの部分のみを見ても、許容される行政裁量の範囲を逸脱した疑いがきわめて強い。
したがって本件厳重注意は、その事前手続き面のみを見ても、裁量の範囲を超える違法の疑いがきわめて強い。
2 処分理由とその合理性
以下では事前手続きに引き続く処分の理由とその合理性について検討する。
(1)行政による教育内容への介入の是非及び範囲について
教育基本法10条1項は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」と定め、同条2項は、「教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目的として行われなければならない。」と定める。
この条文から、法は行政による教育内容への介入(教育行政)は「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立」を目的とするものに法文上限定される。
そして、憲法26条がすべての者に教育を受ける権利を保障し、公教育がここに言う教育を受ける権利、究極には子どもの学習権を保障するための条件整備としてなさせるものである以上、ここに言う「教育の目的」とは子どもの学習権の充足=子どもの成長発達を意味すると考えられる。言いかえれば、行政による教育内容への介入は、子どもの学習権保障を目的とするもののみが認められるのである。
(2)旭川学力テスト事件最高裁判決(最大判昭51.5.21)
旭川学テ事件最高裁判決は要旨以下のように述べる。
「子どもの教育はもっぱら子どもの利益のために行われるべきものであるが、何が子どもの利益でありまたそのために何が必要であるかについては意見の対立が生じうるのであって、関係者の教育の自由の範囲についてはそれぞれの憲法上の自由の根拠に照らして各主張の妥当すべき範囲を画するべきである。
その観点からは、まず親には主として家庭教育・学校選択においてその自由が行使されるし、また私学教育や教師の教授の自由もそれぞれ一定範囲で認められる。それ以外の領域については、国は、子ども自身の利益の擁護のためにあるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるために必要かつ相当な範囲において教育内容についても決定する権能を有する。
ただし教育内容に対するこのような国家的介入はできる限り抑制的であること要請されるし、また子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入は憲法26条、13条の規定からも許されない。」ここに国の教育内容への介入が認められると述べる部分は、上記(1)の趣旨に解するべきであって、つまり行政による教育内容への介入は旭川学テ事件最高裁判決によっても当然に認められたものではない。あくまで、各介入行為につき、その介入目的(究極目的としては子どもの学習権保障目的に限る)及び介入範囲(=大綱的基準の設定に留まる)という点の審査が必要になる。
(3)伝習館高校事件最高裁判決(最判平2.1.18)
伝習館事件最高裁判決は、「(高等学校)学習指導要領は法規としての性格を有すると解することが、憲法23条、26条に違反するものではない」と述べる。
しかしこの判示部分は前述旭川学テ事件最高裁判決の「学習指導要領などによる教育内容への介入は大綱的基準の設定の範囲に留まるべきである」という部分を前提とするものであって、子どもの学習権保障のためという制約目的を前提とする。しかも「大綱」的基準の設定にとどまるものであって、無条件に学習指導要領による教育内容への介入を認めたものとは到底解されない。
(4)教師の教育の自由について
子どもの学習権に資する教育の自由は、憲法23条のほか、憲法26条を根拠に認められる。旭川学テ事件最高裁判決に言う「一定の範囲」の具体的内容は、この観点で解釈されるべきである。
そして、「子どもの教育が教師と子どもとの直接の人格的接触を通じ、その個性に応じて行われなければならないという本質的要請に照らし」(旭川学テ事件最高裁判決)て考えると、現場の具体的要請に応じて教師によって具体的になされた教育内容については最大限尊重すべきであり、それに対して行政が介入をなす際には、介入をする側で、教育内容につき上記制限を越える不合理な教育内容であることを十分に示す必要がある。すなわち、介入は上記の限度、すなわち学習権保障の目的による大綱的基準の設定に限られる(この点て旭川学テ事件最高裁判決のうち「教育内容に対するこのような国家的介入はできる限り抑制的であることが要請されるし、また子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入は憲法26条、13条の規定からも許されない。」という部分が想起されるべきである。)。
旭川学テ事件最高裁判決は「教育に対する行政権力の不当、不要の介入は排除されるべきであるにしても、許容される目的のために必要かつ合理的と認められるそれは、たとえ教育の内容及び方法に関するものであっても、必ずしも同条の禁止するところではない」としている。この最高裁判決を上記の趣旨で解釈し補充すると、「目的の許容性、必要性、合理性」については、行政側が積極的に必要性、合理性をしめすことが要請されるというべきである。
(5)本件厳重注意の違憲違法性
すでに認定した諸事実によると、本件厳重注意については、そもそもその合理性を疑わせ事情が認められるといわざるを得ない。
まずそもそもの焦点であった七生養護学校の性教育「心と体の学習」については、その不必要性・不合理性は即断できないこと、むしろ逆に、教育内容に合理性あることをうかがわせる事情が多いことは、すでに述べたとおりである。
七生養護学校は知的障害児に対する教育を目的とする養護学校であり、特に専門性が強く、また十分な教育効果をあげるためには教育現場の要請を重視する必要性が特に強い。このような知的障害児教育に関する教育の自由の特殊性からみると、普通学級の教師について考える以上に現場教師の自由を尊重すべき要請が強く、その点も介入の合理性判断の際には十分に斟酌されるべきである。
また、行政(都教委)側の対応についても、介入の合理性について十分な反論・立証があるとは認められない。この点について今回の人権救済申し立てに基づく調査の際に都教委側に対し反論・立証のための機会は十分に付与したものの、都教委側の説明は従前発表した書面類を参照するよう述べるにとどまるものがほとんどで、調査に対する誠実性すら疑わざるを得ない対応であった。
ここでなお行政による介入の合理性を判断するに、行政の反論・立証の骨子を従前
の書面類から読み取るに、@学習指導要領に記載がないこと、A生徒の発達段階にそ
ぐわないこと、の2点が大きな理由と思われる。
しかしこれに対しては、学習指導要領の法的性質が「大綱的基準」(旭川学テ判決)であることからして、学習指導要領に記載がないことはそれだけでは介入を可とする理由にならないことは明らかであり、当該内容の合理性を個別に検討する必要がある。
そして当該内容の合理性についてはすでに述べたとおり、その教育内容の合理性をうかがわせる事情は複数認められるのに比して、その不合理性の十分な反論・立証はなされていないと認めざるを得ない。
このように検討すると、七生養護学校における性教育「心と体の学習」について今回都教委がなした「厳重注意」による教育内容への介入は、その介入の合理的根拠が示されているとはとうてい言えないものであり、教師の教育の自由、ひいては子どもの学習権を侵害するものとして、憲法26条に違反の疑いが極めて強く、教育基本法10条等に違反する違法なものといわなければならない。
第7 教材等の原状回復の必要性
都教委は、別紙一覧表の教材等を七生養護学校から調査のために引き上げ、これらの教材を利用した性教育を不適切なものとして、処分を行った。そして、その後教材を返還せずに、実質的に都教委の管理下に置いている。このため同校においては、それまで行ってきた性教育を再開することができない。
前述のとおり、都教委が、七生養護学校の教職員に対して行った処分は、不適切な性教育を理由とする部分について、違憲の疑いがきわめて強く、違法なものである。
したがって、性教育が不適切であることを前提とした都教委の教材の保管継続行為も、同じく教育の自由を侵害する違憲違法な疑いがきわめて強いものである。よってすみやかに、七生養護学校に返却して、2003年7月3日以前に行われていた性教育の内容及び方法について、原状回復がなされるべきである。
第8 結論
1 以上により、今回の都教委による厳重注意は、子どもの学習権及びこれを保障するための教師の教育の自由を侵害する違法なものであり、撤回されるべきである。都教委は、今回の厳重注意が行われる以前の教育状態に原状回復すべきであり、そのために、厳重注意の撤回にとどまらず、すでに学校から回収された性教育教材類も七生養護学校に返却されるべきである。
2 また、教育一般は教職員、保護者の意見に基づき自主的になされる本質をもつところ、特に障害を持つ子どもに対する性教育のあり方については、その特殊性、専門性等に鑑みて、この本質が特に重視されるべきであり、今後都教委は教育への不当な介入はしてはならない。
3 よって当会は、警告の趣旨記載のとおり、東京都教育委員会に対し、警告をする。
以上