"人間と性"懇談室10月例会 感想と報告

                                                    2018年10月10日

    俳句とエロス+短歌   

                   話題提供:青木 清

 俳句の解説、補足と質問、意見交換

正岡子規は、室の南側に寝ていた。小さな庭があり、草ぼうぼうだった。

黒田杏子は、平和俳句の選者でもある。性器と割ったいちじくの色を重ねた。

寺山修司は、60年代、宇田川町で、のぞき見で捕まった。性の表現は自由との考えがあった。60年代は、外国の干渉を受けた時代でもある。

昭和7年に「白木屋」が火事になり、着物に腰巻で下着を着ていなかった女店員が多数焼け死んだとされる事件から、下着を着るようになったと言われている。

上野ちず子は、大学教授。その時の気持ちを、そのまま表現しているのではないか。

上野ちずこの句と繋がる句。生と死にふれた時、エロスの意識が湧いてくるのではないか。

男の目線での歌を感じる。男と女の尿についての映画がある。尿には性を感じる。公衆便所ののぞき見にも通じる。

女に対する憧憬。男女の違いを愛の中に捉える。詩の世界では、女の性器を歌った歌は結構多い。女が裸になっていく過程を書くこともある。紐の間から違う身体への憧憬が生まれる。

堀口大學には、男は草葉の露を吸い、女は肌えの露を吸い との表現もある。

 

● 短歌の解説、補足と質問、意見交換

俵 万智は、現代短歌の作家のひとり。互いがなくなれば幸せだと思う心の表現。

辰巳 泰子

 ろくでなしとは、男を表しているのだろう。興ざめの感が歌われている。

危険物同士とは、同性のこと。同性でのセックスを詠んでいる。

無理に男女に分けることはないとの意図がある。

カムアウトされた母の気持ちを詠んだ。

上記3種の作者、小佐野 弾 は、同性愛の歌人。異性と結婚する同性愛者もいるが、彼はそうしなかったようだ。現在は台湾に在住している。

 

● 男女の性に関する話し合い

〇 乳房について

 ・ 男は視覚的、触覚的に乳房を大事なものと考える。

 ・ 女にとっての乳房は、存在として大事なものと考える。乳がん小説があるくらい。向田邦子も乳がんに罹患して   、乳がん小説を書いている。

〇 セックスについて

 

● レジメ 

「再び俳句とエロス + 短歌」    
   
 夕顔の女湯あみすあからさま
 正岡子規:近代俳句の父。結婚はしていないので同居の妹の行水姿か?あからさまに近代を予告する性への開放が表現されているか?

〇 黒髪の蛇ともならで夜長かな 
 日野 草城:草城は近代(大正)初めてエロスを表現した俳人。黒髪の蛇とは、ギリシャ神話・メデュウサの故事から、顔を見たものはみな石にされる蛇の髪を持つ女。愛する少女(同性愛)の前では髪も蛇にならないところからくる一晩中愛し合ったの意。
〇 秋風や子無き乳房に緊く着る 
 日野 草城:大正という時代を背景に、戦後の句「おそるべき君等の乳房・・」と比較してください。
〇 中年や遠くみのれる夜の桃 
 西東 三鬼:三鬼は生涯36人の女も変えた罰当たり?この時代の中年の概念は、今と少し違いがあるかなという感じが見えます。夜の桃は女性または女体。
〇 あお揚羽母をてごめの日のくれは 
 八田 木枯:「自らの脳中に繰り出す幻影、言い換えれば、狂気である」久保氏の言にあてはまるか?願望?幻想?または現実?「手をあげて母と溺れる春の川」の句があり、母子相姦も考えられる。あお揚羽のイメージが幻想的。
〇 いちじくを割るむらさきの母を割る 黒田杏子:ジェンダーの戦士。

 いちじくを割るは女性器を開くイメージ。男だけでなく女にとっても女性器は神秘なものか?
〇 姉と書けばいろは狂いの髪地獄 
 寺山 修司:天井桟敷の主催者・「書を捨てて街に出でよ」と呼びかけた寺山。母は駐留軍のメイド。乱れた性生活を垣間見て育った姉も・・色狂いといわずいろはといったのがお手柄か。
〇 シュミイズはかくれぬ朝すゞし 
 片山桃史:戦後・女たちはシュミイズ姿で台所や居間に。スリップやキャミソウルではエロスにはならない時代の雰囲気がある。
〇 花冷えのちがふ乳房に逢ひにゆく 
 真鍋 呉夫:私の好きな句。3月末の夜桜見物。浮かれ心と冷え込みが人肌を求めて。
〇 葬ひのある日もっとも欲情す 
 上野 ちず子:東大教授の句。生と死の間にあるのが性。それを実感するとき。
〇 ののしりの果ての身重ね昼の闇 
 時実 新子:出口の見えない昼の闇。男と女の業か。川柳作家・時実新子は不幸な結婚生活で夫のDVや浮気に悩まされる。俳句と川柳の境がなくなった。「穿ち・軽るみ」がないので俳句とする。
〇 かりかりと蟷螂蜂のを食む 
 山口 誓子:性交の後・オスを食うというカマキリ。直接人間の性を読まなくてもエロスを感じさせる句。
〇 谷に鯉もみ合う夜の歓喜かな 
 金子 兜太:戦後、前衛俳句の旗手といわれ兜太も他界。東大卒で日銀へ就職。組合委員長・共産党員であったためか生涯金庫の鍵の番。閑職で終わる。抑圧されたエネルギーが俳句に結集したか。

◆ 泣き癖の わが幼年の背を揺すり  激しく尿る 若き叔母上
 前衛・高柳重信:彼は自分を偽前衛・遅れてきた前衛と言っています。真の前衛は正岡子規。
「人間と性・教育研究所」前所長・高柳美知子の兄。

 

  短歌17首


  ◎ ブラウスの中まで明るき初夏の日に
     けぶるがごときわが乳房あり
― 河野 裕子 ―

◎ いま刈りし若草のような匂ひして
寄り来しときに乳房とがりゐき
◎ 蒼みゆくわれの乳房は菜の花の
黄の明るさと相聞をせり

◎ 厨にて烏賊の嘴ぬきにつつ
阿部定などのことも過りぬ
― 阿木津 英 ―
◎ 乳房おさへ神のとばりそとけりぬ
ここなる花の紅ぞ濃き
― 与謝野 晶子 ―
◎ プールの日着替えの下着を入れ忘れ
帰りの私 マリア・シャラポワ
◎ 水蜜桃の汁吸うごとく愛されて
前世は我は女と思う
◎ さかさまのあなたを愛す夜の淵に
二人メビュウスの輪となれるまで
― 俵 万智 ―
◎ 全存在として抱かれいたる
     あかときの われ天上の花と思わむ
― 道浦 母都子 ―
◎ 指からめあうとき風の谿は見ゆ
ひざのちからを抜いてごらんよ
― 大辻 隆弘 ―
◎ 乳ふさをろくでなしにふふませて
桜終わらす雨を見ている
― 辰巳 泰子 ―
◎ カーテンの向こうはたぶん雨だけど
 ひばりがさえずるようなフェラチオ
◎ 手の中の小鳥のようにひくひくと
  終わってちいさくなったおちんぽ
◎ 夕焼けが濃くなってゆく生理前
  ゆるされるなにもつけないSEX
― 林 あまり ―

◎ 耳朶ふかく鴉が鳴くよ 
         危険物同士夜更けにまぐはひをれば
◎ ママレモン香る朝焼け性別は
       柑橘類としておくいまは
◎ なにもかも打ち明けられて
     しんしんと母の瞳は雨を数える
― 小佐野 弾 ―