"人間と性"懇談室9月例会 感想と報告
2015年9月24日
『あなたにとって家族とは― 私の息子はどうなるの―』
話題提供:渡辺小百合
★ 報告後の意見交換・話し合い
話題提供者の40歳すぎの「引きこもり」次男の生育歴、引きこもりの推測原因、回復への取り組み、今後の見通しなどが報告されたあと、参加者の感想、意見の交換があった。
- 妻子を亡くしたが、孤独の感覚はない。意識的に人と付き合っている。夕食は居酒屋で取ることが多い。40〜50代の客が主流で、彼らと話すのが面白い。年寄りとの会話は意識的に避けている。75歳すぎると後ろ向きの人が多く、彼らとの会話はポジティブにならないから嫌い。一方で、ポックリ死への備えもしている。介護保険での見回りは通り一遍で、話を聞いたりする意思はない状況。緊急対応システムをやっている会社もあるが、それでも不十分だと感じている。
- 母子家庭で、息子は離婚を繰り返したが、それは父親のいないこととは関係ないと思うようになった。親子のコミュニケーションの問題だと思う。子どもの自立をどう促すかの問題。挨拶のできる子はニートになりにくいのではないかと感じる。話題提供者の息子はニートではないと思う。夢を持たせれば、進んでいかれるのではないか。
- 今だに未婚のままの息子と娘がいる。どちらも一人暮らし。結婚しないことが心配。話題提供者の息子は、ニートではなくモラトリアムではないか。反抗期はあったのだろうか。親が援助していることの良し悪しがある。自分のやりたいことを見つけることが大切だと思う。
- 反抗期はあったが、強烈ではなかった。抵抗があるとそれに向かっていくのではなく、引いてしまう傾向があったが、今でも続いている。確かにモラトリアムだとは思う。偏差値信仰の父親の敷いたレールを爆走し、その道から外れて「自分探し」をしているうちに、今日に至ってしまったと言える。
- 子どもたちが放ったらかしにされているのが現状。親子のコミュニケーションがうまくいっていない例が多い。子どもが自分のことを話さない。母親が死んで、仲の悪い姉妹が残され、相続でもめて家がボロボロになっている例もある。老人が万引きなどの悪いことをしている例も増えている。退職後も悠々自適の生活ができる老人は減り、年寄りは早く死ねと言わんばかりの、騙し、誤魔化し、脅しで進めている、竹中さんあたりから始まった、正社員0政策などの政・経が原因だと思う。
- 藤田孝典氏の著書によれば、一億総老後貧困の時代が来るとのこと。2013年の統計では、若い時の収入が少ないから、預金も少ない高齢者が、20%を占める。かたや20%の高齢者は生活苦がない。二極化している。サラリーマンは月給が減っているから年金が減る。個人営業は経営が厳しいから、貯金ができない。現在は6人にひとりの子どもが貧困だと言われている。彼らが老人になる頃は貧困が激増すると予想できる。熟年離婚による男女ともの貧困。思わぬ病気や事故。自立できない子どもの存在。親の年金を当てにしている子ども。などにより、貧困が広がる。定年後1500万円の蓄えが必要だが、それを持たない層が増加。
- 現在の親子は一見仲良く、物も豊富になった。昔は「敬老の日」には「肩もみ券」などがプレゼントされたが、今は高級な物やおしゃれな着るものなどがプレゼントされる。表向きは自由だが、その裏には性生活の悩みがあったり、建前と本音がまだまだ異なっている。人間の性と生と政を研究所ではうたっているが、政は手立ての問題になる。今の孤独についても、どんな手立てをとるかが問われている。
- 家庭は崩壊しても、家族はある。家庭からの解放は家族との別離によって成り立つところがある。結婚後は家族が良くなった。金儲けは下手だったが、仲間作りはできた。仲間の中で才能が伸ばされてきた。40すぎになっても仲間作りは可能ではないか。優しい子とは弱い子でもある。嫌な人とも付き合える幅のあることが大事。おとなになるのが早い、遅い。金儲けがうまい、下手。などは個性。現状のなかでどうするかを考えるのが大事。
- 家の造りに、社会との結びつきと家庭のあり方が出ている。今は社会との結び付きが大事で家族関係は薄いため、リビングも無くなって個室だけの家もある。話題提供者の困り事は、金を稼がない。将来どうなる。にある。競争社会では、教育も就職も金儲けだけが中心になる。その点から、女は明治、大正、戦前まで無能力視されていた。戦後やっと女性の地位が上がったにも関わらず、結婚や出産に関する意識調査では、2003年より2013年の方が若年層の女性で顕著に保守化してきている。金儲けができない、仲間作りができないことへの対策は、独立の生活をさせることではないか。夢、希望、ロマンのない若者は、選挙やデモは効果がないと考えている。アメリカでは、ゲイ、レズビアン専用の職業別電話帳がある。1991年には作られていた。自分たちの夢、希望を実現している。日本には情報が来ていないだけ。
- デビットリースマンが1964の著書「孤独な群衆」で、家族のあり方と時代との関係性を述べている。詳しくは、資料を見てもらいたい。
- 資料
アメリカ人の社会学者デイビッド・リースマンは「孤独な群集」(加藤秀俊訳 1964年 みすず書房)で、親子の関係を社会構造と人間の性格類型から、出生率との関連も含めて次の三つに分類(要約)しました。
1:高度成長潜在的・伝統思考型
この社会は高い死亡率を高い出生率で支える発展途上社会です。循環する飢餓と悪疫から逃れるために、間引きや組織的な動乱が起こる。
この社会では集団の同調性が軸となり、伝統的な行動様式に沿った厳格な規則が支配する。習慣、儀礼、宗教も用意されている。個性の不要な服従の社会,いわば子供が親の顔色をうかがう社会である。
2:過渡的成長・内部思考
この社会は死亡率が出生率より低下し、人口が増加する社会。農業技術の改良で、より多くを養うことができる。食料に限らず、交通、政治など様々な問題解決が,技術的に習熟している。
親や年長者による教育が個人に目標を持たせる。実体験を通じて学んだ方向ずけに依って人間が個性化し,伝統は変動に適応するしなやかさを持つ。
いわば親達との戦いの社会といえよう。
3:初期的人口減退・他人思考
この社会は出生率が低下し、人口が減少する社会。物質生活は豊かになり、マスメディアを通じて言葉やイメージが消費される。情報化が進み、個人の方向ずけは疑似体験を通じて学習される。核家族化は家庭の役割りを希薄にする。ここでは家族よりも、それぞれの帰属する年齢層や社会層の仲間の方が重要になる。親達も放任的に成らざるをえず、いわば子供が親をあやつり、親が言いなりになる社会である。