《ホーム》

思春期の心とからだ

No.35

 

研究所  所長代行 

金子由美子  

 20013/5/1
貧困の苦しみに気づいて
 

 以前にも「子どもの貧困」について書きましたが、経済不況が一層深刻になってきている今、より具体的な現実を、子どもや家庭のプライバシーに配慮し、勤務校の実態や過去の事例、近隣の小中学校からの報告などを重ね合わせてお知らせしたいと思います。なぜなら、最近、私が大学のゲストでこの問題について講義をしたのですが、「うちらのクラスにはそんな子いなかった」「ビンボーは外国の子の話みたいだ」といった大学生たちの他人事のような反応に、私自身が驚いているからです。

 2006年2月の文部科学省の報告によると、経済的理由で学校生活が困難な小中学生への援助(就学援助)を受けている子どもの数は、1995年度の77万人から04年には、134万人と急増しています。

 04年には中学生であった大学生たちのクラスメートの中にも、「ビンボー」に苦しんでいる子がいたはずです。

 本来は、子どもの給食費、修学旅行費、学用品費などへの援助金ですが、親が生活費にまわしてしまい、給食が止まることや、修学旅行にいかれないことを心配する子も増えてきました。

 親に連絡しようにも、電話が止まり通じなかったり、仕事をかけもち真夜中まで働き家にいないこともあります。

 ネグレクト(親が子どもを育てること放棄していること)が疑われるほど不潔な身なりだったり、洗髪や歯磨きなどの清潔習慣が身についていない子もいます。

 入浴するように指導しても、ガスや水道は支払が滞れば、子どもがいる家庭でも止められてしまいます。

 そうした家庭の事情を思い、私の勤務する保健室には、洗濯石鹸、シャンプー、リンス、髭剃りなどを用意し、温水器や洗濯機も生徒が使えるようにしています。

 もっと貧困家庭の多い地区の養護教諭によれば、家でけがをしても学校まで我慢して来たり、インフルエンザ流行時のマスクまで、「保健室でもらってきなさい」と言われて来室する子もいると聞きます。

 リストラにあった父親が職探しの旅に出ている間、僅かな生活費を渡されて家事を任されている二年生の男の子は、給食の残りのパンを幼い兄弟と分け合うために、食べたふりをしてカバンに隠して持ち帰っていました。

 彼の体操シャツは一枚しかなく、下着、寝間着と兼用して擦り減り、レースのように肌が透けていました。

 体育祭が近づき、観客の人目を気にして自分で裏から当てた布が透けて見えクラスメートにからかわれた日、彼は涙目で保健室に駆け込んできました。

 私が自宅に持ち帰り、体操シャツの裏からランニングシャツを縫いつけて渡すと、見栄えの悪さを気にしながらも、笑顔で教室に駆け戻っていきました。そのシャツを彼は二か月近く愛用していました。というより新しいシャツを買うお金はなかったのです。

 一年生の女の子がねんざしてしまい、病院に連れて行くと、駆けつけてきた母親は「大丈夫です」の一点張りで受診を拒否し、腫れたあがった足のわが子を無理やり連れ帰りました。

 後に父親の失業で保険証が失効していたからだとわかりました。

 そうした環境の中で生きるしかない子が、「ウザい」「クサイ」「キショイ」といった言葉で、クラスでいじめられてしまうこともあります。

 

 ケータイ電話が普及したこともあり、同じ学校の友達よりも、趣味や環境が似ている仲間と「楽しく生活したい」と言い、身近な仲間との関わりを避けるような子もいます。

 しかし、私は「生活」とは文字通り、さまざまなタイプの人々が生き生きと活動的に暮らせる社会づくりに、自分も参加していくことだと思っています。

 身近なクラスメートに何が起きているのか、困っていることはないのだろうか、今のあなたにできることはなくても、まずは気づくこと、そして、ビンボーは、子どもの責任ではないということを思い図ってみてください。

 

 

 

 

  

 

 《つづく》

 

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