《ホーム》

思春期の心とからだ

No.34

 

研究所  所長代行 

金子由美子  

 20013/3/24
薬物依存を防ぐために
 

 教員を続けていると、転勤や生徒の卒業で、何度も別れを経験します。私はそのたびに「また会う日まで」と、再会の約束をします。生きてさえいれば、かなわない夢ではありません。でも、この春、二度と会えない別れを経験してしまいました。

 中二のころ、毎日保健室に顔を見せていた彼とも、転勤の際にそんな風に別れました。あの時「いつか会いに行くから」と、心底寂しそうに名残を惜しんで見送ってくれた彼が突然、旅立ってしまったのです。

 訃報を聞いたのは、卒業生たちが誘ってくれた「成人記念お好み焼きパーティー」の日のことでした。昔話に盛り上がる最中、一人の女の子の携帯が鳴りました。声をひそめて話していた彼女の顔はみるみるひきつり、大粒の涙が。「あいつ、死んじゃった…」という彼女の言葉に、一同が青ざめ、しばらく沈黙が続きました。

 彼は進学先の仲間と、ライター用のガスを袋に入れて吸引する「ガスパン遊び」をし、中毒発作で病院に運ばれたのですが、手遅れだったとのことです。誰を責めても、失った命を取り返すことはできません。彼の家族お母さんや兄弟のつらさ、悲しさはどれほどでしょう、何よりも、死ぬつもりではなかった彼自身が、一番悲しく悔しかったのではないでしょうか。居合わせたみんなは、涙を浮かべながら、彼への思いを語り出しました。

 私には、過去にも同じような経験があります。シンナーを吸って登校し、保健室で過ごした女の子は、二十歳になっても薬物依存が止められず、最後は摂食障害で亡くなりました。覚せい剤に手を出して、消息不明の男の子もいました。ガスライターが髪に引火し大やけどを負った女の子はいまだに後遺症で苦しんでいると言います。みんな、ヤンチャだけれども、甘えん坊でさびしがり屋で憶病な子たちでした。

 親や先生に反抗したり、規則を破りたくなったりする、いわゆる思春期危機は、程度の差こそあれ、誰もが経験することです。ただ、「薬物依存」は一度経験すると取り返しがつきません。むしばまれた体は元通りにはならず、一時は止めても「フラッシュバック」という現象で過去に揺り戻されることもあります。もちろん、そうした危険性については、授業や薬物乱用防止教室などで全国のどこの学校でも教えているはずです。

 しかし一方で、メールやネットによってさまざまな薬物が簡単に手に入り、大学生やタレントがファッションのように大麻や覚せい剤を使用したり所持したりする事件は後を絶ちません。

 こんなふうに命を軽く扱う風潮の中で、身近な若者の死を間近にして、私は命の重さを教えることの難しさに悩んでいるところです。あなたなら、命の大切さを人にどう伝えますか、薬物に手を出そうとしている友達がいたらどんな声をかけますか。ぜひ、一緒に考えてほしいテーマです。そして、ヒントになる意見がもらえたらうれしいです。

 

 

 

 

  

 

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