No.28
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研究所 所長代行 金子由美子 |
20012/7/16
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メールなら本心言える |
前回は携帯電話のデメリットの部分を中心に書きましたが、メリットも確かにあります。 学校を休みがちな中学三年生の女の子のプロフのことが、保健室に集まる女の子たちの話題になっていたので、のぞいてみると、ド派手なメークとゴスロリファッションの彼女が現れました。近県に住む同じ趣味の友人と一緒に外泊するようになり、家にも帰っていないようだとのうわさが流れていました。 心配した担任が家庭連絡しても、ひとり親家庭の母親は深夜勤務で電話がつながりません。ようやく話せた母親は「相手は異性ではないし、アニメの声優のファンクラブ仲間だから大丈夫。毎日ケータイで話してるから」と安心しきっているようでした。以前から秋葉原でのイベントに泊まりがけで行くなど「プチ家出」が常習になっていたようです。 しかし、夏休みが終わるころ、事件が起きました。母親の元に、数十万円の請求書を持った中年男性がやってきたというのです。夏休みの間、彼女の趣味仲間の女の子たちは、秋葉原に近いマンションで寝泊まりしていました。同じファンクラブの男性が「泊めてあげるよ。大丈夫。僕はエッチに興味ないし実家は別だから」と部屋を提供してくれたそうです。宿泊代金や飲食代としては法外と思えるほどのお金を、母親は何とか工面して、手渡してしまいました。母親から学校に相談があったのはその後のことでしたが、信頼していた男性に裏切られたショックもあり、彼女は部屋に引きこもっているとのことでした。 新学期になっても登校しない彼女は、電話にも家庭訪問にも応答なし。そこで私は、彼女の上級生の女の子に、間に入ってもらうことにしました。その子は高校進学後に「ゴスロリ」に熱中し、時々保健室にも遊びにきていました。 先輩からのメールに反応した彼女から、私のケータイにメールが入りました。「センセーが心配してくれてるって、チョーかんどー。涙マーク」。私は「放課後、みんなが帰ってからでもいいから、保健室においでよ。ハートマーク」と返信。すると「ありがとう。ピースマーク」とまた返信。 彼女自身も救いの手を待っていたのでしょうが、人にだまされた心の傷が癒えておらず、会って話すことに臆病(おくびょう)になっていたようです。こんなふうに、メールだからこそ、素直に本心を言えることもあり、ケータイという存在により、助けを求めることができる事実もあるのです。 その事件以後、彼女と母親はぎくしゃくした関係になってしまったようでした。そこで、私は母親に「彼女と三人でメル友になりましょう」と提案しました。それから三週間ほどたった日の深夜、彼女からのメールが届いていました。「今、うわさから逃げているけど、これじゃ一生終わりがないよね。ママとセンセーのメールにチョー癒やされる。明日は朝から教室行ってみるし」。 その言葉通り、朝の学活には、当たり前のように教室に座っている彼女の姿がありました。
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