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研究所所員 南 定四郎 |
高齢者の性は自然に起きはしない |
2012.7.16 |
一般的には性欲は自然発生的に起こるものだ、と認識されています。 ある一定の期間だだけ発情期があるのは動物だけであってヒトは期間限定ではなく、四季を通じて発情するので性欲をコントロールする能力を備えた、というのが従来の性科学の説明でした。 この説明は高齢者には説得力がありません。また、高齢になると体力が衰え、男性の場合は精液の貯蔵能力が枯渇してしまうから性欲は発生しにくい、という通説もあります。しかし、それらの俗説は妄想に導かれた愚論だと言いたいと思います。
高齢者に性欲不振があるとすれば、それは、さまざまな社会的条件や環境要因が性欲を起こさせることを阻害しているからです。 たとえば、60才の男性が職場を失ったとすれば再就職の機会はほとんどありません。そのような生活上の不安は大きなストレスとなって蓄積します。 あるいは、性行為の相手を何らかの理由で失ったとすれば、再び誰かにめぐりあう機会は絶望的でありましょう。そのような年齢上の不具合はイクオール生存に対する危険因子となります。 ヒトは危険因子を抱え込んだ状態では性欲を発生する機能が脳内で活動しません。 ところで、私は体調不良を改善するために2年前にパートナーを東京に残して沖縄に移住いたしました。ようやくパートナーが勤務先を退職して沖縄に戻り(彼は沖縄出身なのです)、再び35年間の同棲生活を復活いたしました。 ところが、二人ともかってのような性欲は起きてこないのです。2年間の空白が原因とは思えません。なぜなら、この2年間に短時日でも数回の再会機会があり、そのときには旺盛な性欲があったからです。 実はパートナーが失業保険の受給者となり、勤務先を探さなければならい就活をしています。しかし、高齢(60才)のためはかばかしく進展しません。まさに「生存に対する危険因子」が脳のなかに充満しています。要するに「性行為どころではない」という心境になっていることは十分承知できることです。 しかし、よく考えてみれば、パートナーの性欲が発生しないことを漫然と受け容れ、私の方から積極的に働きかけたことがなかったことも大きな要因であるのかも知れません。恐らく正解でありましょう。 冒頭に書いたように私も「性欲は自然発生的に起こる」という俗説を信じていたようです。高齢者には「社会的条件や環境要因」が性欲を発生させるようには整備されていません。いっときも早く現役を放棄するように仕組まれているのが現状です。 したがって、自ら積極的に「社会的条件や環境要因」を排除する努力をすることと同時並行的に性的モチベーションを高めることも必要なのです。 性的モチベーションとはエロティックなDVD商品を見るとか、というような世俗的なエロス願望を満たすことではありません。そうではなく、脳に対する文化的刺激を高めることです。調和的な美の共同体験をすることによって充足感の共有が可能となります。 そうすれば、お互いにいたわりの心が生まれて自然に性欲へとつながるものです。 高齢者こそ性教育を怠ることなく、倦(う)まずたゆまず実践すべきヒトなのです。 |
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