月刊「ゆた かな くらし」

連載より

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研究所所長 高柳 美知子
 

男根神話の呪縛

◆若者を悩ます包茎

 

 前号では自慰に悩む男の子をとりあげましたが、今や日本の若者たちを追い込んでいる性の悩みのトップは、包茎への不安です。

 「子ども電話相談」を担当している知人の話では、最近は次のような悩みが増えてきているというのです。

 

・林間学校でみんなでお風呂に入ったとき、自分のペニスは小さくて、あたまもでていません。将来、結婚できるか心配です。

・友だちのペニスは大人のように皮がめくれていますが、ボクのは皮がかぶったままで恥ずかしいのです。

 

 じつは先日、私のところにも高校生の親から、「息子が修学旅行にいく前に包茎を直したいというので、私も付き添って病院で手術をしたのです。でも納得がいかないようで、すっかり落ち込んでしまい、私とも口をきかないのです」との相談がありました。

 ちなみに、インターネットで「包茎・仮性包茎」を開くと、包茎手術のクリニックや美容整形の宣伝広告、体験者の声が次々と出てきます。

 男性向けの雑誌を開けば、ここにも包茎に関する広告が掲載されています。そのほとんどは、「包茎は不潔だ」「早漏の原因だ」「女性にもてない」「彼女がガンになる元凶だ」「包茎だとエイズになりやすい」といった脅しのオンパレード。そのあげく、包茎のままでは男の一生は台なしになるから当クリニックで手術をどうぞ!と誘導するわけです。

 包茎を矯正する器具の商品宣伝も目につきます。曰く、「自宅で10秒。安全無害。液だけで包茎解消。自宅で誰にも知られずに治る!!」。そうして「治らなかったらご返金」とか「人に見破られたらご返金」と続くのです。

 こうした脅しの情報に若者がからめとられないためには、科学的な正しい性の知識を得ることが必要です。といっても、大仰な学問的なことではなく、包茎には仮性と真性があり、日本人の70%は仮性包茎であること。仮性の場合は手術には及ばないこと。真性の場合は医師に相談しほうがいいと言った程度の知識があればいいのです。 

 「かぶれば包茎、むければOK!」

これは、「包茎の手術は不要」を唱えておられる泌尿器科医師の岩室紳也先生が、中・高校生たちに呼びかけている言葉です。問題は、包皮と亀頭の間のひだのなかが不潔にならないようにすること。これもまた、岩室先生の「むいて、洗って、またもどす」ことを心掛ければいいのです。

◆男根神話

男性向けの雑誌で目につくのは包茎だけではありません。男の精力増強や精力剤、勃起持続などの宣伝広告が、これまた男たちをこれ見よがしに手招きしています。

 男にとっての性器は、「男らしさ」の象徴であり、男の存在証明を意味してきたといえます。かって陽根と呼ばれたように、太くて亀頭が突出するほどに勃起して、勢いよく精液を飛ばすほどいいのだという男根神話は、長い間、いや今日もなお、男性たちを呪縛し続けているようです。

 それに拍車をかけているのが、性産業が量産し続ける性情報です。ポルノグラフィやアダルトビデオ、インターネットなどに登場するのは、きまって巨大なペニスの持ち主であり、何度でも性交ができ、勃起時間も長い男たちです。それに対する女はと言えば、結局は男のいいなりになるといったもの。

 こうしてタフでハードなセックスを刷り込まれた男たちは、「男根」こそ己の優位性を示すものと思い込み、「ペニスが小さいと女性を満足させられない」との呪縛に己を追い込んで、いや追い込まれていきます。「集団レイプする人はまだ元気があるからいい。正常に近いんじゃないか」との太田誠一・元総務庁長官の発言も、こうした男根神話にその根っこがあるのでしょう。 

 ある調査によると、女性たちが何に性的魅力を感じるかとしてあげたものは、

「ひきしまった筋肉、よく手入れされた髪、明るい顔色、白い歯並び」というものでした。当の女性が何を願っているのか、男は全く問題にすることもないまま、性的不能になることをひたすらおそれる…。この男根神話の裏側には、女の性を「モノ」としてみる女性観が張り付いています。

◆男性器のルーツは?

 

 人間の出発は、女の一つの卵子と男の一つの精子とが合体(受精)することから始まります。

 女か男かを決めるのは性染色体です。卵子がもっているのはX型の1種類。精子にはX型とY型の2種類の染色体があります。受精のとき、Xの染色体をもった精子と合体した場合は女の胎児、Yの染色体の場合は男の胎児となります。私が女であることも、あなたが女、もしくは男であるのも、すべてこの受精の瞬間のめぐりあわせによるものです。

 ところが、受精してから6週目ぐらいまでは、女も男も、本来の性を示す特徴は外見上まったく見当たりません。両性具有的存在として、同じような成長過程をたどります。外性器の形が決まりだすのは、着床してからようやく45日ごろ。 こうして、男女の性器は、同じ原形から分化したために、それぞれ形が違っても元は同じということになります。精巣と卵巣。大陰唇が合わさって一つになったのが陰のう。小陰唇はペニスの基部。クリトリスはペニスの亀頭にと男性化していったもの。

 どうやら生物学的には「アダムからイブを」でなく、「イブからアダムを」と言うわけです。男性優位の象徴である男性器も、発生学的にみればまさにナンセンスな「神話」といえましょう。

 

◆「男もつくられる」

 デパートの赤ちゃん用品や子ども服売り場をのぞくと、洋服は勿論、靴、寝具、食器、ベビーカー等など、相変わらず、男の子用はブルー色、女の子用はピンク色に区分けされて売られています。

 「男(女)の子でしょ」「男(女)の子らしくしなさい」「男(女)の子ですもの…」「男(女)の子だから…」

 わたしも、そしてきっとあなたも、この言葉を聞きながら大きくなったのではないですか。

 これらの言葉は、男の子にとっては「もっとしっかりしなさい。期待してるよ」の意を込めての叱咤激励であり、女の子には、「そんなにでしゃばっては駄目。おとなしくしてなさいよ」とたしなめる意がこめられています。

「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」の声に乗って、父と息子を映し出すテレビのコマーシャルがあったのを覚えている方も多いのではありませんか。そういえば、「雄々(男々)しい」は、ほめ言葉、「女々しい」はけなし言葉ですよね。英語のMANは「男・人間」と訳しますが、W0MANの訳は「女」の意しかありません。

 社会のほとんどが男を基準にして、男を中心にして発想され、仕組まれているために、男たちは、女を引き合いにして「男である」ことの優越性を刷り込まれていくのでしょう。

 「人は女に生まれるのではない。女につくられるのだ」とは、フランスの作家ボーボワールの有名な言葉です。これをそのままそっくり裏返しにすれば、「人は男に生まれるのではない。男につくられるのだ」となるのであって、女も男も、ともに「つくられた」ものである点に変わりはないのです。