どうしたらいいの? これからの性教育
 

“人間と性”教育研究所 所長

高柳 美知子

 

      「家庭でも性教育をしなければ…」と思ってはいるけれど、
実際
になにを教えればいいかわからない。そんなお父さんやお母さん、
子どもに「性」を語るとき、大切にしたいのはこんなことです!

★性について知ることは 自分について知ること

 人間は女や男の体を持って生まれ、生涯その体で生きていかなければなりません。性教育というと、特別な勉強のようなイメージがありますが、性について知るということは自分自身を知るということ。難しく考える必要はないと思います。
 押さえておきたいのは次の3点。
 第一は、体のすばらしさを教えること
。話す、笑う、動くといった日常の動作から、抱きしめるなどのスキンシップまで、いろいろな体験を通して、人間の体のしくみや役割を体感させてあげてください。絵本などをみながら体について話し合ってみるのもよいでしょう。

  第二に、性器や性交についての質問にも、逃げずに答えること。答えにくいからとごまかしたりせず、人間の体のメカニズムについて科学的に教えてあげましょう。

 第三に、イヤなことには「イヤ」と言う力を育てること。最近では子どもの性被害も多くなっていることを考えると、とても重要なことです。知らない人にはついていかないこと、勝手に体をさわられたりしたら、はっきり「イヤ」と言い、信頼できるおとなに相談することなどを教えましょう。ただし、「知らないおとなはみんなこわい人」のように教える必要はありません。日頃からふれあいの心地よさを学んでいれば、間違った形の接触にはとっさに「イヤ」といえるはず。そのためにも、ふだんから体のすばらしさを実感させるような体験をさせておくことが大事です。

思春期になったらプライバシーを尊重して

  また、親にとっては、思春期をどう乗り越えるかということも心配の種ではないでしょうか。思春期には月経や射精が始まって体も発達し、肉体的・精神的に子どもからおとなへと変身していきます。子どもたちは自分自身の変化に不安を覚えるものですが、幼児期と違い、この年ごろの子どもが親に素直に相談や質問を持ちかけることはほとんどありません。思春期になる前に、月経や射精について話しておいてあげましょう。自慰(マスタベーション)をするようになるのもこの頃です。自慰は快感を得る方法を学び、自分の体のしくみを知るすてきなこと。罪悪視するような行為ではありません。子どもが自慰をする年齢になったらプライバシーを尊重し、部屋に入る前にはドアをノックするくらいの心配りが必要です。

子どもの「性」 への疑問にどう答える?

 子どもから性について質問されて慌てたことはありませんか?
具体的な対処の仕方を考えておきましょう。

 まず気づきをほめてあげよう

 子どもから性について突然質問されると、おとなは驚いてしまいますが、子どもたちはいやらしい気持ちで聞いているわけではありません。2〜3歳の子どもがいちばん多く聞くことは、男女の体の違いについてではないでしょうか。これは、子どもが自分とほかの人との違いをわかり始めてきた証拠。だから、自分にはオチンチンがあるのに、お母さんや姉妹にないということが不思議に思えるのでしょう。子どもは、ほかの不思議に思うことと同じように性の質問をしているわけです。おとなの思惑や目線で、子どもの質問をとらえないことが大切です。子どもに性について聞かれたら、「どうしてそういうふうに思ったの」と聞いてみてください。すると、会話の中で子どもがなにを疑問に思っているがわかりますから、それに答えてあげればよいわけです。大切なのは、きちんと子どもの質問に向き合うということです。


 幼児からの性教育が必要なわけ

 幼児から性教育をするというと、多くの人は「必要ないのでは」と思うかもしれません。日本人はオープンに性について語ることは苦手です。でも、子どもは知りたがりや。お父さんにはどうして私にはないものがぶらさがっているのか、お母さんにおっぱいがあるのはなぜか、赤ちゃんはどこからうまれるのか。不思議に思ったことを聞きたいと思うのはあたりまえのことですね。あなたもおとなにこういうこと質問してウソをつかれたり、はぐらかされて、あとから本当のことを知って傷着いた経験はありませんか。そうすると子どもは「性はいやらしいこと、性の話はしていけないこと」というマイナスのイメージを持ってしまうものです。

 人は基本的に“男の体”“女の体からだ”を持って生まれてきて、生涯その体=性で生きていきます。だから性について知るということは、自分を知るということになります。子どもの質問に対して、明るく楽しく話してあげられれば、子どもは性に明るいイメージを持つようになります。「人の体ってすごいな、私っていいな」と肯定的に思えるように、幼児のうちから楽しく体の話をあげましょう。

 また、今の日本は性情報が氾濫し、性犯罪に幼児が巻きこまれることも少なくありません。子どもを無菌状態にしておくのが無理な現状です。子どもの知りたい気持ちを無視してしまうと、間違った知識や情報にふりまわされたり、不必要な恐怖心をもってしまうことにもなりかねません。そうならないためにも、家庭できちんと性教育をしていく必要があるのです。

 ここがポイント 答え方の三原則

 子どもの質問にきちんと答えるには、まず親が性について学習すること。そして次の3つの原則を守ってあげることです。

うそをつかない
 うそをついてその場をしのいでも、いずれは本当のことがわかってしまいます。すると子どもは「あのときはうそをつかれたんだ」という思いがショックとともに残ります。そして、もう性について質問してこなくなってしまいます。

逃げない
  子どもは親の態度から性についてイメージをつくります。「そんなこと知らない」と逃げたり、聞こえないふりをしたら、子どもは「聞いてはいけないことなんだ」と思って、「性は隠すもの」という暗いイメージを持つようになります。

怒らない
 子どもはそんなことを聞くもんじゃない」といきなり怒りだす親がいますが、怒ってしまうと子どもは「性は悪いこと」「親の前では口に出してはいけないこと」と思うようになります。


 子どもからの困った質問、こんなふうに答えてみたら……

 おふろに入っているときに
「どうしてボクにはオチンチンがあるのに、お母さんはないの?」

 まず、「よいことに気がついたわね」とほめてあげてください。二〜三歳の子どもは自分とほかの人の違いに気づく時期なので、その気づきをできるだけほめてあげてください。それから「お母さんは女だからよ。あなたは男でしょう。だからよ」と違いを言ってあげれば「ふーん」と納得してくれるでしょう。もう少し、成長すると、性器の違いを理解するようになります。

 きょうだいが生まれたときに
「赤ちゃんが生まれるのはどうしてお母さんだけなの?」

 「女の人は赤ちゃんを生むことのできる体をもっているからよ」で納得してくれるでしょう。「赤ちゃんはどうやって生まれるの」と聞く子には、「お父さんとお母さんが愛し合って生まれるの」と、お父さんとお母さんがいるからこそ生まれるのだと話してあげましょう。それでも納得しない子には「お母さんの赤ちゃんのもととお父さんの赤ちゃんのもとが一緒になると、お母さんのおなかの中に赤ちゃんができるのよ」と少し具体的に説明してあげてください。

 デパートやレストランの男女のトイレマークを見て、
「どうして決められたほうに入らなくてはならないの?」

 「女の人と男の人はおしっこのしかたが違うでしょ。男の人は立ってするし、女の人は座っておしりを出してするから、トイレをわけているのよ」。相手が男の子の場合は「まだあなたは小さいからお母さんと一緒だけれど、もう少し大きくなったら男の人のほうでできるといいわね」とつけ加えて。

 生理のときに一緒におふろに入って、
「どうして血がでているの。ケガをしているの?」

 おとなの女の人は赤ちゃんを生むときのために、おなかの中にお部屋を準備しているのだけど、ときどきお掃除をするの」と簡単に生理のしくみを説明してあげます。そのときは、「血が出ているけれどケガではないし、痛くもないのよ」と安心させてあげてください。相手が女の子だったら「あなたもおとなになったらそうなるのよ」とつけ加えてあげるのもよいでしょう。

 トイレの汚物入れをあけてひらいてきた子には、生理のしくみを説明してから「これは赤ちゃんのお部屋を掃除するときに使うのだけど、トイレに流すと詰まるからここに捨てるの。わかったらもうあけるのはやめようね」と話してあげて。

「お母さんにおっぱいがあるのに、お父さんにないのはなぜ?」

 

「お母さんは赤ちゃんを生むときお乳を出す腺が大きくなって、おっぱいをあげられるようになるの。お父さんはおっぱいの出る腺が大きくならないからよ」と、体の仕組みの違いも説明してあげて。女の子だったら、「あなたもおとなになると、おっぱいが大きくなるのよ」と言ってあげましょう。