TEACH・A・BODIES

「スージィとフレッド」人形賛歌

                   “人間と性”教育研究所所長
                     高柳 美知子

◆「スージィとフレッド」のこと

?「スージィとフレッド」との出会いは、1987年8月ーアメリカに性教育を学びにいった折りのことでした。ツアーの団長は、“人間と性”教育研究所・前所長の山本直英(2002没)さん、同行者は性教育に取り組む教師30余名。研修先は、キンゼイ研究所(インディアナ大学)とSIECUS(ニューヨーク大学)、ヒューマンセクシュアリティ研究所(サンフランシスコ)。当時、アメリカ社会を揺るがせていたのは、「エイズ」「子どもたちへの性的いたずら」「10代の中絶」。
 3カ所の研究所を飛行機でハシゴするというハードな日程でしたが、子どもをとりまく性の問題状況に真摯に向き合い、その克服に向けて積極的にとりくむ各分野のリーダーたちの熱心な講義は、いま、振り返っても実にすばらしいものでした。
スージィとフレッドが登場したのは、2番目の研修先のSIECUSでした。SIECUS(アメリカ性情報、性教育評議会)は、1964年に設立された私設の教育機関で、ヒューマンセクシュアリティを主唱し、メンバーは教育者、牧師、医者、心理学者、ソーシャルワーカーなど。ちなみに、3日間の研修プログラムは次の通りです。
@「歓迎と導入」A合衆国の性教育の概観B「幼稚園から中学校までの公立学校でのプログラム」C「低学年の性教育」D「思春期の性教育」E「思春期の生徒といっしょに動く教育法」F「思春期向けNY市のプログラム」G「ラテン系青少年向け性教育」H「幼稚園から12歳までの性教育教材」I「性教育用視覚教材」
研修最終日。H講座の担当講師がカバンからとりだしたのはユーモラスな表情の男女対の布製人形。そう、「スージィとフレッド」です。どちらにも性器・体毛がついていて、女性の人形には、胎児と胎盤が、男性のズボンのポケットにはコンドームが入っています。
勿論、人形ですから、正確さや緻密さには欠けますが、図とか写真にはない暖かみがあり、自分の両腕に抱え込める親密さは、子どもたちを喜ばせることうけあいです。すっかり気に入った私たちは、ほぼ全員がその場で購入を申し込んだのでした。

◆人形製作者は発達心理学・性教育の専門家

 人形の製作者のジューン・ハーネスト(June Harnesut)さんは、大学で心理学を学んだ性教育の専門家。ご自身で開いたクリエイティブ・プレスクールで就学前の児童の性教育実践にとりくむなかで、人形模型の人形が教材として最適であることに思いいたり、1981年に性教育教材のTEACH・A・BODIES「スージィとフレッド」人形の製作会社を設立したのでした。ハーネストさんは、次のように語っています。

「からだはすばらしいものです。私たちのからだのどこも恥ずかしがるところはありません。スージィとフレッドは、私たちが男と女のからだについて学ぶのを助けてくれます。

? どうぞ人間のからだがつくられてくるすばらしい過程を味わい理解するのに役立ててください。スージィとフレッドは、人間と同じからだの構造を持った人間です。一人ひとりの子どもに何が起こっているかを話し合うより、人形であるスージィとフレッドに何が起こっているかを話し合う方が、大人にとっても子どもにとっても楽に学べるのではないでしょうか」

◆世界で日本で大活躍の「スージィとフレッド」

スージィとフレッド人形は発売以来、性教育教材として大きな反響を呼び、ニューヨークタイムズなどの有力紙に大々的に紹介されました。アメリカの学校やセラピストに活用されるだけでなく、数十カ国に輸出されて大活躍。そういえば、その後の性教育研修ツアーで訪問した北欧各国、ドイツ、イギリス、カナダなど、行く先々でこのスージィとフレッドに出会ったものです。
私たちがアメリカから大事に連れ帰ったスージィとフレッド人形も、性教育関係者たちの間でたちまち注目を集め、朝日新聞やNHKなどのマスメディアも、学校での性教育教材として紹介。反響は大きく、購入希望のはがきがたくさん寄せられました。「わが家のおもちゃ箱に入れておきたい」「目の見えないわが子に1組わけてください」などといった親たちの声も届きました。研修ツアーの団長を務めた山本直英さんがハーネストさんと連絡を取り、とりあえず400ペアーが日本に到着。あっというまに日本全国に旅立っていきました。
第二回目の輸入からは、スージィとフレッドの目は青から黒に、ヘアーは茶色から黒に変身しました。日本で使われるものなので、日本人に似せて製作したのです。その後、赤ちゃん、子ども、大人、老人と各年代がそろうようになり、写真のようなにぎにぎしいフアミリー一家が誕生。また、障害をもっている子どもたちが学びやすいようにと等身大の人形も製作されました。

 

◆大島清先生(京都大学名誉教授)も絶賛  

 医学博士で性科学の第1人者として著名な大島清先生は、性教育教材としてスージィとフレッドがいかに優れものであるかを次のように述べておられます。  「性器をつけた人形、それをグロテスクだとしかめ面をする人は感性が貧しい。子どもたちはむしろ、ズンベラボウの人形に奇異な念を抱くだろう。親や教師が恥ずかしがってみせられない性差を、人形が見せてくれるのである。

 人形のスージィちゃんとフレッド君のペアーは、成長するにつれて体の形容を改めていく。

  スージィはやがて生理用のナプキンを着脱するようになり、さらに長じるとバルバからへその緒で胎盤とつがった赤ちゃん坊も取り出せるようになる。私はつとに、性教育の要は、月経周期存在の意味と、へその緒と生命のかかわりを教えることと考えているので、この人形を手に取ると胸が躍るのだ」

『スージィとフレッド』ジューン・ハーネスト著 KKダイナミックセラーズ発行から

◆「からだっていいな」賛歌は性の学習を始める第一歩

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 「こんなにヒューマンな人形が他にあったでしょうか。デパートの人形売り場
にあるたくさんの人形に、一つでもこんな人形があるでしょうか」
こう話すのは山本直英さん。ではもう少し、彼の声を聞いてみましょう。
「人形の原始を見れば、じつは性器を持った人形は多かったのです。しかし、性を抑圧し排除する表文化の中で、いつの間にか性器は人形から消えてしまいました。それは、私たち人間のセクシュアリティもそうであったことを物語っています。
しかし、今、ようやくこの状態から脱出するための試みが、学校や家庭で始まりだしました。その時、人間の体や性のすばらしさや大切さを感じ、知らせるためにも、このスージィとフレッドの持つ性器の意味は実に大きいと思わざるをえません。
ジューン・ハーネストさんの、この偉大なるチャレンジをもっとも抵抗なく自然な感覚で迎えてくれるのは子どもたちです。大人は何の〈躊躇〉することもなく安心して子どもたちにこの人形を抱かせてあげてください。彼らは、大人が家に持ち込むポルノよりも、このような教材こそ待ち望んでいたのです」 
身をもって日本の性教育を切り開いてきた山本さんならではの言葉です。
だれもがみんなからだを持って生きています。「からだっていいな」という賛歌は、まさに性の学習を始める第1歩なのです。

 
? B5版 一部300円で発売中

  

 

 

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