熟年の性を考える

《ホーム》

№１

“人間と性”教育研究所所員

岩淵　成子

プロローグ

人生には四季があります。生まれ育つ春の時。社会的活動を伸ばし広げる夏の時。活動の成果を刈り取る秋の時。そして、次代に成果を受け渡す冬の時。

　熟年は秋の時です。実り多い秋のときを、従来の常識ではマイナスイメージで考えすぎていました。「女でなくなる」「立たなくなった」などと、性的存在から遠いものになったように言われていました。

　確かに「生殖の性」からは「卒業」の時でしょう。しかし、今の日本では゛人間の性゛にとって生殖の性はごく一部でしかありません。生殖の性を卒業したこれからが、人間らしいコミュニケーションとしての゛関係性としての性゛を謳歌できるときです。

　日本経済が暗く、将来の不安を抱える今こそ、明るい未来を築くために、ご一緒に『熟年の性』を考えていきましょう。

性欲解消のセックスから互いの存在を確認するセックスへ

ご自分の若い頃を振り返ってみても、若者のセックスは、空腹を満たすために、コンビニのインスタント食品をガツガツむさぼる食事のようなセックスだと思いませんか。

　味は二の次、腹さえ満たせばそれで良いと量だけを求める。それが若者の食事です。しかし、食欲はそれほど強くなくなった熟年の今は、食事を心から楽しめるゆとりが出てきているはずです。

　セックスにも同じことが言えます。自分の性欲を満たすことが優先され、性器の結合だけにとらわれていた若いときのセックスは、なんと貧しいセックスだったことでしょう。

　これからは、グルメのセックスを楽しみましょう。性器の結合だけがセックスの楽しみ方ではありません。妊娠の不安も無くなった今、勃起時間の長短など関係なく、自分と相手が心と身体を一体化でき、身体の各部で性の喜びを表現し合う、至福の時間を作るセックス。そんなセックスをしていくことができるときです。

　グルメ料理には腕の良いシェフや板前が必要ですし、彼らがいる店へ行かねばなりませんから高額な出費を強いられます。しかし、セックスは互いの思いやりで楽しむものですから、２人のアイディア次第です。高額な出費などは必要ありませんし、わざわざどこかへ出かける必要もありません。

　今こそ、グルメのセックスを楽しみましょう。

潤滑剤とバイアグラの前に　①

　セックスを楽しむことは、挿入にこだわることではありません。
若いときに挿入にとらわれていた男性は、女性が挿入されることを望んでいると思いこんでいるようです。　

　男性は挿入し、射精することでオーガズムに達するので、挿入することが最大の快感と思いこんでも仕方がないのですが、女性のオーガズムは挿入の快感で得られるのではありません。発生学的には亀頭と同じ器官はクリトリスですから、女性のオーガズムはクリトリスへの刺激で起きるのであって、挿入の刺激ではありません。実は、膣とは胎児が通り傷つけられることにも耐えられるほどに鈍感な部位なのです。膣への挿入がオーガズムを生むというのは錯覚です。女性は、オーガズムに達したことを、膣の潤いで証明しているにすぎないのです。

　生殖の性には挿入が不可欠ですが、コミュニケーションの性には、挿入は不可欠ではありません。互いが幸せを感じ、相手への信頼が増せばそれで充分です。互いが心地よさを楽しむことが第一です。バイアグラを飲んで無理に勃起させたり、挿入の痛みを和らげようと無理に潤滑剤に頼ったりする必要はないのです。

潤滑剤とバイアグラの前に　②

　熟年になれば、膣の潤いが少なくなるのは当然だと思いがちです。特に閉経後は「女でなくなった」などと言われてきたこともあり、挿入は無理になったのだと思いがちです。しかし、女性の快感は元々精神的な要素が半分以上を占めているのです。そこが、ホルモンの作用が半分以上を占めている男性の勃起とは大きな違いです。『ハウトゥーセックス』の著書もある、産婦人科医でセックスカウンセラーでもあった故奈良林先生の言葉によれば『３０代の女性も７０代の女性もオーガズムの感じ方は同じです』とのことです。

　膣の潤い方は、相手との関係性を表すことも多いものです。若いときからどんなセックスを重ねて来たかによります。相手の状況も考えず、勃起すればすぐ挿入と、自慰の道具のような対応しかされてこなかった場合は、充分潤わないままに今日に至ったということが考えられます。そんな相手でも、勃起に支障を来しかけた今こそ、相手の状況に合わせた、優しい対応が可能になるときです。膣が充分潤うまで、優しい言葉と愛撫を続けることで、今までに味わえないおとなのセックスライフを楽しむことができます。　

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