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「あの人に会いたい」


第1回:堀口ご夫妻に聞く
第1回

堀口ご夫妻に聞く

(以後 貞夫さん…貞 雅子さん…雅)

聞き手  佐藤 晴世(以後 H)
堀口夫妻

ご夫妻のプロフィール

堀口貞夫氏

・1933年生まれ 産婦人科医

・前愛育病院院長前東京大学医学部講師、

・現在東京墨田区の中林病院の外来担当主婦会館クリニック

  『身体と心の相談室』

・“人間と性” 教育研究所 研究員

堀口雅子氏

・1930年生まれ 産婦人科医

・群馬大学医学部卒虎の門病院産婦人科 医長を経て、

 (現)嘱託医、

・嘱託医女性成人病クリニック副院長

・性と健康を考 える女性専門家の会 会長

・ 池袋エポック10で<テイーンズの性・相談>

・2003’エイボン女性功労賞受賞 

・“人間と性”教育研究所 研究員                   



AM10時にご自宅に伺う 雅子さんはご不在。夫・貞夫さんの母親の介護で昨夜から一泊されているとのこと。
 

(H)

今日は研究所のHPのためのインタビューに応じて頂いてありがとうございます。 雅子先生はいつもお姑さんに付き添っていらっしゃるのですか?
(貞)

いえ、皆で夜の介護と、姉が息抜きをするための外出時に留守番をしています。 初めは同居している姉が看ていたんですが、それでは介護する者一人に負担が 掛かるので、兄弟やその連れ合いが皆で交代しながら夜は全部看よう。そして ホッとしたい時、ゆっくりしたい時に外出できるように看ようと言うことにな りました。定年退職して、少し時間が自由になり、私たちの親世代も一人しか 残っていないということもあります。母は自分が同居している娘が一番いいの でしょうが、そこは母にも少し我慢して貰って、お互いの負担が平等という訳 にはなかなかいきませんが、少しでも姉が楽になるようにと考えています。

(H) 普通介護といえば、身近で世話する者が一手に引き受けて、後の者は知らん顔と いう例が多いですね。初めは協力的だった兄弟姉妹も長くなるに従って、だんだ ん関わらなくなる
(貞)

そういう介護だと、介護者は本当に介護される者の身になって考えることが段々 出来なくなる。疲れると人間優しくなれないですから…。

(H) 介護もそうですが、家事や子育てが女性だけにのしかかるという家庭が多いと思うのですが、貞夫先生は、精力的に働く女性と結婚されて、どのように協力して来られたのでしょうか。
(貞)

子どもの保育園の送り迎えを、私は状況に応じてやっていましたね。でも二人が家に帰ると「子どもがいない!!」ということもありました。(笑)  

家事や育児を妻と二人ですることは当然という考えでした。

(H) 先生がご結婚された頃はまだまだ封建主義的な考えが残っていたと思いますが…。
(貞)

やはり、子どものときにどんな意識で育ったかというのは大切かも知れませんね。

わたしは割合そういう意味で、男女の区別なく育ちましたから。

 
雅子さんが帰宅され、貞夫さんは原稿を書くために隣の食卓に移られました。
 

(H)

おじゃましています。    

今、貞夫先生にご夫婦共働きで来られたことのお話を伺っていたところです。

(雅)

ほんとに夫婦が共に働くのは大変なことです。日本はその制度が整っていないから。  

私は、たくさんの女性に支えて頂いたの。私の母や姑、お手伝いにきてもらった方。 それまでの蓄えを家事や育児に使ったのよ。お金が残らなくてもいいと思っていたから。仕事を続けられる人と結婚したかったので、なかなかそういう人に巡り会わなかった。しかし、彼は仕事を持ち続けようという人を求めていたので、納得して結婚することができました。

私は38歳で結婚したのですが、産婦人科医として自分の技術や学問を高める時期を通りすぎてからの結婚なので、それが幸いして、子どもを産むゆとりがありました。それでも最初の一年は子どもを看てくれる方がいなくて、仕事を中断しました。

  

「私の辞書に休職はない」と枕を濡らした日々もあります。その後、母や姉の近くに越してきて、サポートしてもらいました。

 

(H) 今、日本の働く女性は保育園も充実していないし、親からのサポートが受けられる人も限られていて、ますます子育てが難しくなっていますね。
(雅) 私たちの親は孫の存在そのものが楽しくて、喜んで孫を看てくれましたが、今は親たちが自分の生き甲斐を別にもって、孫の面倒をみたくないという人も増えているわね。
(H) 一部の男性は変ってきていますが、ほとんどの男性は相変わらず、家事も育児も手伝ってくれない。というより手伝える余裕がない程、会社に拘束されていますね。
(雅) 男の人が手伝わない。更に二人とも仕事がハードでセックス・レスも増えています。これでは、ますます少子化に拍車が掛かるわね。
(H)

子育ての協力者には恵まれたお二人ですが、家事はご夫婦でどうこなしてこられたのですか?

(雅)

もともと、私も夫もジェンダー・フリーな家庭に育ったと思います。貞夫も働く女性がいいというような人ですから、何でも一緒にやってくれました。そうでなければたぶん続きませんでしたね。私の場合男女が対等でない事は、学校に行ってから知りました。「女は黙っていなさい。」とか。父は女の子も自分がやりたいことをやりなさいという人でしたから。  

だから、私は薬学部を卒業後、最初、有機化学とか合成化学をやりたかったのですが、「爆発することもあるから危ない。女は分析化学をやりなさい。」といわれました。結局ホルモンの研究を東大の薬学部でやりました。しかし、もともとが病弱で、良い医者・看護師の世話になったせいか医者になりたかった人間が、女性ということで社会の抵抗を受け、薬学に進まざるを得なかったのですから、やはり医者になりたくて、一念発起群馬大学の医学部に入り直しました。だから出発も皆より5歳遅かったのですよ。

(H)

結婚もされ、やっとゆとりを持って生活できるようになった先生がどうして余暇をたのしんで楽に生きる道を選ばないで、望まない妊娠、中絶など女性の人権に深く関わるお仕事をされるようになったのですか?

(雅)

家では男女の別なく、育てられましたが外に出て、女性にはいろいろ壁があることを知りました。薬学時代ホルモンを研究していたこともあり、産婦人科をお産だけじゃないホルモンを含むもっと女性の体全体のこととして捉えたいと思っていました。不合理なことがたくさんあり、女性の扱いを変えていかなければと思い、具体的には20年くらい前からそのもやもやを解決したくて月経の問題と取り組んでいるうちに女性問題に行き着いたのです。

リプロ ダクティブ・ヘルス/ ライツ(女性の性と生殖に関する健康と権利)という考えがそのころから、徐々に出てきました。世の中が女性に対して持っているおかしな考え、女性の一生で妊娠や出産は人生の一部でしかないのに、いかに歪められているかそれに気づいた頃、望まない妊娠や中絶が増えていたの。私の仲間で開業している方達はすでにそういうことを肌で感じていたのです。

女性の考えがどんどん変わってきている。そういう情報を教えてくれるの。性に関してもどんどんアクティブになっていくのがわかりました。今の子達は性欲も男女には差がないと言っているし、援助交際をしている子は、私のものを使って何が悪いのと言う時代です。

10代の子どもたちが性感染症やHIVに掛からないとはもう誰にも言えなくなってきているでしょう。

(H) 先生は、複数の相手と関係を持ち、性的にアクティブに振る舞う女性を肯定的に観ていらっしゃいますか。
(雅)

いいえ肯定していません。それは後でどの女性も後悔することを知っていますから。望まない妊娠や中絶、性感染症の治療のあとで、本当に好きな人と人生を築こうとしたとき必ず後悔するときが来るんです。

あれはマスコミに踊らされていたと感じるときが来る。その場が楽しければいいというときはいつまでも続かない。でも実際には、電信柱や車内広告に風俗まがいの宣伝が貼られ、電車に乗れば隣のおじさんが、巨乳のモデルさんの大きく写った新聞を読み、コンビニには子どもの手の届くところに大人向けポルノまがいの雑誌や、性の描写赤裸々な少女雑誌があり、みんなこんなに楽しんでいるということが、こうでああでと書いてある。

大人が、何が良くて何がいけないのか示せない世の中になっているわね。もう少し大人が自制する必要があると思っていますよ。

 

(H)

私も常々感じているのですが、コンビニにどんな雑誌があるか親や教師に読んでもらいたい。

きれいな女の子の表紙に隠れて、「可愛くない女はもてない。可愛くなるためには、ダイエット.プチ整形.ブランドの服や靴.バッグを手に入れなくちゃ」というメッセージ。

そして、ご丁寧にテレクラの電話番号が書いてあったり、出会い系サイトで知り合った男性に気前よくお小遣いをもらう話が載っていたりと、お金を手に入れる方法まで書いてある。

また、好きになった男の子がSEXを求めてくるのは当たり前で、断ったら捨てられるよというメッセージもいっぱい…。

 

(雅)

ゆたかな時代に育った大人が、子どもに何でも与えてしまう。戦争を経験した時代の人間は、メディアの規制をすると戦前の偏った情報の流れに戻るのではないかという恐れもあって、なかなかこういう情報の規制もできない。我慢できない大人と子どもが次々量産されていくわね。

今、先生達の間で性教育はどうなっているの?

 

(H)

『ラブ&ボディBOOK』からはじまった性教育バッシング以来、先生達は大変な想いをしていると思います。新聞や雑誌には性教育を受けた子供達が性行動を活発化させているといような記事を書いていますが、性教協の夏のセミナーでさえ参加する教師は多くて1200〜300名(教師以外の参加者もいます)。その先生方が自分の地域に帰ってしまえば、孤立無援ということも多いのです。性交をまともに取り上げて教わっている子どもたちがそんなに多くいるとは思えません。

メディアの情報は取り締まれないのに、学校の性教育はどんどん取り締まる。きちんと学んだ子どもたちは自己肯定感が育って、自分を大切にするという意味で性行動の抑止力にもなると思うのですが…。

 

(貞)

先日、日本臨床という雑誌(61巻・24P〜31P)にも「ラブ&ボディ」をバッシッグする記事がありましたよ。(話を聞いていた貞夫さんが原稿を書く手をとめて、その記事を持ってきて下さる。)やはりピルを使うことにこだわってしまって、性教育の視点が抜け落ちてしまっている。どうしても性教育を、女性を対象にしたHIVの感染や中絶をしないための視点でやっているから、ピルの記述を許せない事のように取り上げる。コンドームで避妊も性感染症も防げといいながら、男性への性教育が必要だという視点や、自分を大切にするという視点が欠けているね。

 

(雅) あなた、だからそのことをきちんと次の原稿には書いて下さらなきゃね。
 

と、お二人でバッシング記事に対抗する原稿の内容について語り始める
 

(雅) あなたは母親の立場で、どうして性教育に関心をもったの?
(H)

私は結婚する前に幼稚園教諭でした。だから幼い子どもが性に関心を持つことを知っていました。それは大人が持つような関心ではなくて、純粋に自分がどう生まれてきたかを知りたいだけということもわかっていました。だから性教育の必要性を感じていたのです。

長男がとても良い性教育を受けることが出来たこともあって、次男にも三男にも性のことはきちんと教えて、自己肯定感を持って、自分の性を自分でしっかりコントロールできる男性になって欲しいと思いました。

そのためには自分で教えるしかない。その前に自分が学ばないと、という感じでした。

 

(雅)

それで上手く教えられましたか?

(H)

どうでしょうか。息子達が、コンドームを使えないような男は、人間として失格というような決めつけた言い方をするので、「人間そんなにいつも理性的ではいられない。その時どうするか、常に責任を持って行動出来るとは限らないでしょう…。」というような意見を私が言ったりします。

(雅) あら、親子でそんな会話が出来るのは素敵じゃない。
 

お昼までお二人と話をさせて頂き、その間、ご夫婦には同じ仕事に従事する同志としての 会話があったり、貞夫さんが昼食の準備をなれた手つきでなさるというベスト・カップル ならではの、一面を見せていただきました。

そして、私も昼食をご一緒ささせていただくことに…。

手早く作られたそうめんのペペロンチーノとかぼちゃのサラダそして、高級なワインの栓 を抜いて頂きました。

−−−乾杯 !!  いただきます−−−

 

(貞) うちでは昼にワインを飲むんですよ。今日みたいに少しのんびりした日はね!
(H) ニンニクの香りと鷹の爪の辛みが利いて、茹で方もおそうめんとは思えない位ですね。
(貞) 茹で方がポイントなんですよ。
(H) こんなに抵抗なく家事をされるなんて、先生の年代の男性では少ないですよね。
(貞)

男はね、台所をさせられたら損をしたと思うんですよ。でも、自分の衣食くらい自分で出来なければ、自立しているとはいえないでしょ。

それと、私は小学校六年の時に集団疎開をしている世代です。疎開出発の前に衣類の整理、ボタン付けや繕い物の練習をしました。戦後革靴を履くようになってからは普段の手入れや、雨に濡れた時の対処法、全部、母からです。

自分の着るものが何処に整理されているか解らなければ、女性はいつも母親のような気持ちで夫を見る事から逃れられないでしょうね。

 

(H) そういう歴史の中で培われて、雅子先生と結婚されたのですね。
(貞)

堀口の家は鹿児島と宮崎の出です。祖父(母の父)はワンマンで、大変だったようです。母はしっかり家庭をまもっていましたが、(開業していた医院の戦災・九州の山の中への緊急疎開・横浜への転居など)性格的に今の時代ならば、家に閉じこもってはいなかったでしょう。

それでも私が結婚する時は「孫の面倒はみないよ。」と釘を刺されていました。

(雅)

彼と私はそういう意味ではよく似た家庭に育ったのね。だから、結婚してからも私は彼に助けられてやってきたのよ。彼がお料理を作ってくれたときは「とっても美味しい。工夫がいい。」とか必ずほめるの。そうすると次回はさらに工夫した一品になるという具合。今では、朝起きたら、彼が朝食を準備してくれる間に、私はこの食卓で原稿を書くの。

 

(H)

うーん、なかなか今の日本の家庭ではそううまく二人で家事をこなせるカップルはいないかも。私は、結婚した当時働いていましたが、近くに住んでいた、母が「男の人に家事をさせるなんて!」と言っていました。夫は最初抵抗なくやろうとしてくれましたが、まわりがどんどん手を出して、夫の家事参加を阻みましたね。(笑)

(雅) 最初からやらないと難しいわよね。結婚したときからやらなければ、子供ができたからといって変れないものよ。
(H) うちの夫も含めて男性は会社から帰してもらえないから、子育てにも係われないですしね。
(雅) 女性は自立したがっているけど、社会制度や男の自立が進んでいないわね。
(H)

今日は本当にごちそうさまでした。お二人からいろいろ伺って勉強になりました。    

ありがとうございました。これからも一層ご活躍なさって下さい。

 

男性の自立も女性の自立も難しいと思っていましたが、どんなに忙しくても自分が生きる ために必要なことができればそれが自立なんですね。

子供の時からそういう意識で育って いくことが必要だと感じました。

性の問題に少しずつ異なる経験を照らし合わせお二人で 取り組んでいらっしゃる事もお互いに心強いでしょうが、それより、家事を協力すること で一層夫婦としての絆が強くなっていらっしゃる様子が伺えました。

 


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